※本稿は、渡邊剛『心を安定させる方法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
絶対にミスが許されない心臓外科医の習慣
心得 「メンタルフラット」で生きよう
時間が止まったかのような、研ぎ澄まされた感覚を得ることを「ゾーンに入った」と言うそうです。
世界的なハードル選手だった為末大さんは、認知心理学者の下条信輔さんとの共著『自分を超える心とからだの使い方』(朝日新聞出版)のなかで、「ゾーンに入った」経験は人生でたった3度だけとおっしゃっています。
ゾーンに関する話題は、漫画やアニメの世界でも描かれることが多く、周りの人たちの動きが止まって見えるなか、主人公だけ動けているシーンや、周囲の音が一切消えて、自分の世界だけが描かれている場面を目にしたことがある方もいると思います。
心臓外科医である私にも、「手術をしているときの感覚も同じですか」と、取材をしてくださる記者の方から聞かれることがよくあります。
そんなわけがありません。
もし、あなたが患者として、私に心臓手術の執刀を託してくださったとしましょう。
日によって驚くほどの実力を発揮することもあれば、そうでもない手術をすることもある心臓外科医。こんなパフォーマンスに波のある外科医に、自分の命運を賭けたいと思いますか? 少なくとも、私が患者なら嫌です。
「いつもと同じ」が理想的
心臓外科医にとって、何よりも大切なのは「メンタルフラット」であること。緊張しすぎず、いつもどおり、練習でやってきたことを本番でも再現することに意識を向けます。
そして、もし何か最初の想定とは違うことが起きたとしても対応できるように、スタッフからの声が聞こえるくらいの深さの集中をもって、患者さんと向き合います。
毎回ゾーンに入れるのであればいざ知らず、為末さんでさえ、生涯において経験されたのはわずか3回だけです。そんな奇跡のような状態を引き出そうとするよりも、実力をしっかり発揮できる力を身につけるほうが、価値があると思います。
では、仕事においてパフォーマンスにムラがある人と、パフォーマンスの波が少ない人で比べた場合、どちらに仕事を任せたいと思うでしょうか。
多くの方が、後者に仕事を任せると思います。なぜなら、仕事を任せるときは「期待どおりの働き」を相手に求めているからです。はじめから「期待以上の働き」を求めている人はいないでしょう。
大事なのは「いつもと違う力を発揮する」ことよりも、「いつもと同じ力をどんなときでも発揮できるようになる」ことです。「メンタルフラット」を強く意識してください。