月商100万円以上でなければ導入費用が負担大
反対に、向いていない業態の筆頭は、サービスにも大きな価値が含まれるファインダイニングだろう。熟練のサービススタッフにコースや料理を相談して最適なものを選択したり、ソムリエに好みを伝えてワインを薦めてもらったりするのは、高級店だけでしかできない体験だ。おまかせコースが中心の店では、個別に注文するのはドリンクのみのためモバイルオーダーは必要にならない。
それから、地下の店舗などで、携帯電話の電波が弱い上にWi-Fiを設置していないところも不向きだ。スムーズに注文ができず、客のストレスを溜めてしまう。
コストの面でみれば、モバイルオーダーの導入費用は10万円から20万円、月額費用が1万円から3万円が相場となっている。飲食店の営業利益率は10%もあればよいほうで、5%程度が一般的とされる。月商100万円以上の規模がなければ、月に1万円以上の新たな出費を許容するのは厳しいかもしれない。
総務省統計局の2016年経済センサスによると、日本標準産業分類「76 飲食店」では、全国45万3541事業所のうち、個人事業主が30万4983事業所。つまり飲食店の約67.3%は個人事業主が経営している。同調査によれば個人事業主による飲食店の売上は平均で年間約1000万円。月商は80万円程度ということになる。
多少無理をして導入したとしても、オーダー管理をこれまでのアナログからデジタルに替える必要があり、スタッフへの再教育が必要となる。当然、管理機能の使い方もマスターしなければならない。小規模店にとってはこれも無視できないコストだろう。
キャッシュレス非対応と同じように敬遠される可能性も
飲食店ではコロナ禍で接触機会の削減を目的としてキャッシュレス化が進み、現金しか対応していない店は敬遠されるようになってきている。同様に、モバイルオーダーに慣れた客が店員とのやりとりのわずらわしさなどを理由に、口頭でのやりとりしかできない店を避ける可能性も今後は出てくるかもしれない。
飲食店にとってモバイルオーダーのメリットは大きい。ただし店舗によって事情が異なるだけに、導入するべきか否か、判断力が試される時期となっている。