「男児には、女児の2人分と同額」

では、イスラム法で相続はどのように規定されているのだろうか。

「コーラン」の4章11節には、「アッラーはあなたがたの子女についてこう命じられる。男児には、女児の2人分と同額」とある。これが遺産相続の原則とされ、男性の相続分は女性の2倍とされているのである。

これでは、女性に対して不公平ではないかということになるが、家督相続と共通していて、女性には経済的な負担や義務はいっさい課せられない。逆に、男性に対しては厳しい扶養の義務が課せられ、女性を経済的に支え続けなければならないのだ。

ここでも、権利には明確に義務が伴っている。

戦後の日本社会では、あらゆる面で平等ということが重視され、それと平行して家の重要性は大きく低下した。さらに、高度経済成長の時代になると、産業構造の転換が起こり、多くの人間が、役所などの公的機関や企業に雇われるようになった。

農家では家の存在が決定的に重要で、それをいかに存続させていくかが課題になったが、サラリーマン家庭では、家は家族の憩いの場へと大きく変貌した。子どもを育てるにしても、家を継がせるためではなくなった。子どもも、やがては役所や企業に雇われ、家を存続させることに力を注いだりはしないのだ。

新宗教だからこその教訓

遺産をめぐってもめごとを起こさないようにするにはどうしたらいいのか。

答えは簡単だ。

遺産を残さないことである。

輝くナンバーゼロの前に待っている人間の群衆
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実は、私が研究してきた日本の新宗教の教団で、最近、そうしたことが起こった。

創価学会の池田大作、幸福の科学の大川隆法という二人の教祖が亡くなったのだ。どちらの教祖も、膨大な数の著作があり、それはベストセラーになってきた。印税収入は相当な額にのぼる。当然、遺産も巨額になったはずだ。

池田大作氏死去/故池田大作氏のお別れの会
写真=時事通信フォト
創価学会名誉会長の故池田大作氏のお別れの会で、献花する参列者=2024年1月30日午後、東京都千代田区

だが、二人とも、生前にその大半を教団に寄付していた。たとえば、創価大学の創立資金には『人間革命』の印税が投じられている。出版物を買ったのは信者なのだから、それが信者に利益として還元されるのは当然だ。創価学会の信者はこぞって自分の子どもを創価大学に送り込んだ。

これまで、他の新宗教の教団では、亡くなった教祖の遺産をめぐって争いが起こってきた。ところが、創価学会でも幸福の科学でも、それは起こらなかった。争いが起きなければ、教団が分裂したり、分派が生じることもない。

新宗教というと、金儲けのイメージが強い。だが、金が集まってくるからこそ、その弊害も知っている。

これは、相続で悩まないための貴重な教訓になっているのではないだろうか。

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