政府は円安政策を意図的に進めているように見える

では、今後、円安はどこまで進むのか。

どうも政府は円安政策を意図的に進めているように見える。政府・日銀が円買い介入をしたのもスピードが速いことへの牽制で、円高方向に持っていくつもりはないようだ。実際、日銀はマイナス金利政策から脱却すると言いながら、長期金利の上昇を抑えるために金融緩和を実質的に継続している。政府も円安になれば輸出企業を中心に業績が上がり、それが賃上げにつながって経済好循環が始まると考えているのだろう。やはり「円安はプラス」でデフレ脱却には円安政策を続けるしかないと本音では考えているのではないか。円安で輸入物価が上がれば、国民生活は苦しくなり、消費も落ち込むことになるが、その前に賃上げが進めば、マイナスは克服できると考えているようだ。

岸田内閣の思惑とは裏腹に、今年3月まで実質賃金はマイナスが続いている。ガソリンや電気代への補助金など物価上昇を抑える財政支出を続けているが、これで日本の財政への信頼度が下がることになれば円安要因となり、輸入物価がさらに上昇するという悪循環に陥りかねない。円安が経済好循環のきっかけになるという政府の見立てが正しいのかどうかは予断を許さない。

物価上昇のイメージ
写真=iStock.com/Ibrahim Akcengiz
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日本は「安い労働力」の国になりつつある

では、円安が続いた場合、何が起きるのか。

世界的に見て、日本の「ヒト・モノ・カネ」は、すでにバーゲンセール状態になりつつある。JNTO(日本政府観光局)の推計によると3月の訪日外客数は300万人を突破、月間として過去最多を記録した。コロナ前からの傾向では、3月より4月の方が観光客は多く、さらに7月が年間で最も多い。つまり、300万人という数は通過点に過ぎないということだ。

外国人が大挙して日本にやってくるのは何しろ「安い」から。円安によって日本国内のモノはアジアの都市部の価格よりも割安になっている。

一方で、「ヒト」の価格も下落している。つまり、人件費だ。政府は「最低賃金」の引き上げを急いでいる。最低賃金の全国加重平均は2021年10月の時給930円から、2023年10月には1004円まで8%引き上げられた。ところが、これをドル建てで換算してみたらどうなるか。2021年は為替レートが1ドル=111円で、2023年は149円だったから、ドル建てに換算した最低時給は8.38ドルから6.74ドルに20%近く下落したことになる。そうでなくても日本の最低賃金は主要先進国に比べて大幅に低いとされているので、日本はまさに「安い労働力」の国になりつつある。しかも、労働者としての熟練度は高いから世界で活躍する企業にとって、日本の労働者は超割安ということになる。