そんな困難を乗り切れたのは、沼本の中に昔からあった“あきらめない心”だ。入社まもない同じ頃、わが耳を疑うような出来事にも遭遇した。上司との個人面談に呼び出された沼本は「そろそろ、具体的な仕事の指示が出るのかな?」――そんなことを考えていたが、上司が発した言葉は「How can I help you?(何か私に手伝えることはあるかい?)」。
「こちら側に、やりたい何かがあることが前提なわけです。通産省で受け身の姿勢に慣れ親しんできた者としては、全く違う場所に来てしまったものだと、ショックを受けました」
その後、マイクロソフトの製品の中核分野で着実にキャリアを積み重ね、重要なポジションを担ってきた。
「仕事をひたすら楽しんで一生懸命やっていると、仕事で知り合いになった他の事業部の人が声をかけてくれ、新しい仕事が用意されていました。その繰り返しです」。沼本の信念は、「食べてみなければ、それが好きか嫌いかなんてわからない。まずは食べてみる。そして面白いと感じたら、とことんまでやってみる」。つまり、任された仕事をやり抜くタイプ。一方、気持ちの切り替えは早い。大学時代、体育会テニス部でインカレに出場したほどの腕前だ。その経験から沼本は「テニスは、前のポイントを引きずってはダメ。うまくいっても失敗しても、考えるのは今のポイントのことだけ」という。
自らを「製品・技術畑の人間」と位置づける沼本は、「アカデミックな抽象的な戦略論より、現実感のある地に足が着いた考え方をしたい」志向の持ち主だ。そうした考えで、新しいビジネスモデルを構築してきた。今後は、サーバ関連の技術やパブリッククラウドなどに携わる。
「10年前を振り返れば、“当たり前”がどんどん変わってきたと気づきます。クラウド技術の進展で“職場にいないので、データは見られません”の言い訳は通用しません。これからもユーザーの要望などを汲み上げながら、“当たり前”のレベルを引き上げていきたいです」
1971年、東京都生まれ。私立桐蔭学園高校卒。93年東京大学法学部卒業後、通産省(現経済産業省)に入省。スタンフォード大学でMBA取得後、97年9月からマイクロソフトに転職し、現在に至る。