相手が不快に思ったら即ハラスメントか?

最近、「相手が不快に思ったら、そのすべての言動がハラスメントだ」とする社会的な風潮が強まっていることに、私は強い懸念を抱いています。総合職として入社してきた部下に地方への転勤の辞令を伝えたところ、「それはパワハラでしょう」と訴えてきたケースがありました。採用にあたって地方転勤がありえることを含めた雇用契約を交わし、部下本人も内容を確認したうえで署名しているにもかかわらず……。どうしてそう思うのかを尋ねると、「いざ自分が辞令を受けてみて、どうしても嫌だと思ったから」という返答があったそうです。

往々にして、自分が思ったことをなかなか言い出せない部下と、自分が思ったことをストレートに口に出してしまう部下に二分されます。前者の場合、ハラスメントに対する悩みを一人で抱え込み、問題を深刻化させてしまうことがあります。後者の場合は、本来ハラスメントに該当しないにもかかわらず、一方的に「ハラスメントだ」と騒いで、上司やコンプライアンス担当者を右往左往させることになります。

いまではチャットGPTをはじめとする生成AI(人工知能)を使って、自分がハラスメントを受けているかどうかを、時に調べることができます。しかし、自分の置かれた立場をきちんと整理したうえで、正確な前提条件を入力していなければ、チャットGPTといえども判断が歪みます。会社側が事実関係を詳細に調査し、ハラスメントには該当しないことを伝えても、「チャットGPTが正しい」と言って一歩も引かず、根気強く説明するしかないようなケースも少なくないようです。