「赤ちゃんが母語を習得する」方法で学ぶ

本章では私が実践している言語習得のステップを紹介していきますが、重要なポイントは「赤ちゃんが母語を学ぶ過程」と同じように学んでいくことです。

赤ちゃんは母語を身につける際、まず親など周囲の人たちが発している言葉を真似します。最初は意味などわかりませんが、さまざまな言葉を真似して発しながら「この言葉は、こういうときに使うようだ」と理解を深めていきます。

こうして徐々に周囲とコミュニケーションを取れるようになっていくのです。

言語を「学問」として学ぶ場合は、また別の有効なアプローチがあるのでしょう。しかし本書で紹介していくのは、あくまでも「コミュニケーションツールとしての言語」を習得する方法です。それには、「赤ちゃんが周囲とコミュニケーションを取るために言葉を学んでいく過程」にならうのが理想的というわけです。

まだ、脳が未発達で柔らかい赤ちゃんが母語を学ぶ過程を、とっくに脳が成熟して固まってしまっている大人が、今さらたどることなど可能なのだろうかといぶかしく思ったでしょうか。

たしかに、私は脳科学者でも言語学者でもないので、学術的なことはいえません。ただ、実体験から「大人の言語習得の最も効率的な順序は、実は赤ちゃんが母語を学ぶ過程と同じなのではないか」と考えているのです。

インカムを付けノートパソコンに向かっている男性
写真=iStock.com/maroke
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「聴く」「話す」から始めるべき理由

本書で紹介する言語習得のメソッドは、大きく「①ネイティブの発音を真似る」「②実用的な文法を身につける」の2ステップに分かれています。

最初に「文法と多少の単語」を学んでから会話力を身につけていくのではなく、まず「実践的なフレーズを、ネイティブの発音を真似して声に出す」というのを、徹底的に積み重ねます(ステップ①)。

そこでフレーズを頭の中にストックしつつ、リスニングとスピーキングの素地を作ってから、文法を学んでいく(ステップ②)という順序です。

ステップ①でリスニングとスピーキングの素地を作ると言っても、まだ文法的な知識はゼロですから、ただひたすらネイティブの発音を聴いたまま声に出してみるだけです。

文法という論理的な裏付けのない状態で、その言語の発音に慣れながら「聴く」「話す」の感覚を身につける。まずそこから始めるという意味で、この言語学習法を私は「感覚的な学び方」と呼んでいるのです。