自民党外交が封印してきた
パンドラの箱を開けた民主党
今度の衆院選でどのような政権が誕生するにせよ、重く伸し掛かってくるのが外交である。2期目に入った米オバマ政権や習近平体制に移行した中国との関係から、尖閣、竹島、北方領土をめぐる領土問題、北朝鮮の拉致・核問題まで問題山積だ。
いつの時代もどこの国でも、外交は継続性が重要だが、民主党政権を経て日本外交は各方面で継続性を失い、四面楚歌に陥っている。その責任を民主党政権の稚拙な外交手腕に問うても仕方がない。むしろそれ以前の自民党政権が戦後60年にわたってどういう外交をやってきたのか、自民党外交の本質というものを理解しなければ、日本外交の未来はない。
言ってみれば、民主党政権はオリンパスの社長に抜擢された英国人マイケル・ウッドフォードのようなものだ。歴代社長が地下に埋め込んできた膨大な損失隠し。何も知らずにそのパンドラの箱を開けたのが欧州本部からやってきたウッドフォードであり、調査を始めた途端にクビになった。
自民党外交が封印してきたパンドラの箱を開けたのが民主党政権である。オリンパス問題で喩えるなら監査事務所や会計事務所に当たるのが外務省。本来外務省がしっかりプロとしての職務を果たしていれば政権に関係なく外交の継続性も確保できたはずだ。しかし、外務省も自民党政権とつるんで機能不全に陥ってしまった。
1年で政権がクルクル変わる政治に引きずられて場当たり的に仕事をこなし、いよいよコントロール不能な大臣がやってくると冬眠状態に入る――。日本の役所はどこも同じである。
さて自民党外交の本質とは何か。1つは対米一辺倒である。どんなに屈辱的でもアメリカの言うことには逆らわない。
同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツと比べてみるとわかりやすい。ドイツは湾岸戦争に反対しながら、アフガニスタンには大規模な派兵をした。独立国家として、NATO(北大西洋条約機構)の一員としてやるべきことの是々非々がハッキリしていて、アメリカもドイツを小突き回せないことを承知している。
ところが日本に対して、アメリカは小突き回すどころか、「妾」と思っているから反論も許さない。日本円を中心としたアジア通貨を提案した宮沢喜一構想は潰されたし、「日米中正三角形」と言い出した鳩山由紀夫元首相は、往復ビンタどころか普天間基地移設問題で蹴り倒されて足腰が立たなくなった。
対米関係を利するために、アメリカ国内では各国が激しいロビー活動を展開している。中国は大学や学者に寄付したり、さまざまなグループに金をばらまいて大変な勢いでネットワークをつくり上げているし、シリコンバレーでは台湾ロビーが圧倒的に強い。
政治活動で不動のチャンピオンは、マスコミや金融機関をガッチリ支配しているイスラエルで、大統領候補はイスラエルへの忠誠を示さなければ勝ち残れない。
一方、対米一辺倒の自民党政権は親日派、知日派の一部の政治家や外交官を頼みにするだけで、アメリカの外交政策や世論形成に多大な影響力を持つ学者やジャーナリストの組織化を怠ってきた。
そのツケが回って米メディアは10年以上前に中国シフトに切り替えているし、今になって日本政府が「一緒に尖閣を守ってくれますよね」と言っても米政府は口を濁している。日本からの移民(日系人)は100万人いるが政治的な活動には無関心の人が多い。一方、中国系は400万人を超え、活発な互助組織として機能している。尖閣に対してのアメリカの態度が次第に“中立”になってきているのも彼らの活動と無縁ではない。
東西冷戦下であれば対米一辺倒でも良かったのだろうが、冷戦後の世界は新興国を中心に動いている。日本の外交はその手当てがまったく遅れていて、冷戦下の外交の枠組みから一歩も抜け出ていないのだ。
だから中国との関係も昔と変わらない。戦後の日中関係は1972年の国交正常化で、中国は日本に対する戦後賠償を放棄する代わりに、日本は中国の発展を手助けするという形でスタートした。つまり「先進国の日本が世界最貧国の中国を助けてあげる」という上から目線の“ODA思想”から始まっているのである。
将来、中国が発展してきたら両国の関係をどうするのか。経済的にはどうするのか。軍事的にはどうするのか。日中関係を深化させていくうえでアメリカとの距離はどうするのか――。こうした前向きな議論を交わすことなく、日本はただただODAモード一辺倒で中国と付き合ってきた。あれだけ中国が成長発展したにもかかわらず、ODAが盲腸のように存在し続けているのは、それが日本では「利権化」しているからだ。中国も戦後賠償の一環と思っているから、もらえるだけもらおうということで感謝したことがない。
中国が強国になったにもかかわらずODAモードの関係を続けていることがストレスになって、両国で反日、反中の機運をますます高めている。