北海道・小樽は現在、洋菓子やガラス工芸品で知られている。そのルーツは何か。小樽市総合博物館館長の石川直章さんは「明治期の小樽は北日本有数の港町で、一大物流拠点だった。小樽には最新の流行り物が集まりやすい環境にあった」という――。

※本稿は、中川裕『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』(集英社新書)内の石川直章氏のコラム「続・小樽から見た『ゴールデンカムイ』」の一部を再編集したものです。

アシㇼパの履いている「黒いタイツ」の謎

連載の初期から気になっていたのが、アシㇼパ(『ゴールデンカムイ』のヒロイン)が初めて登場した時からずっと履いている謎の「黒いタイツ」のような衣類です。この正体はいったい何なのだろうということで、実は中川先生ともいろいろと議論をしたことがあります。

1巻2話より。アシㇼパが履いているものの正体は……?
1巻2話より。アシㇼパが履いているものの正体は……?(©野田サトル/集英社)

中川先生いわく、毛布状のものだとすると絵の表現としてはもう少しフワフワした感じになるだろうとのこと。作品にはアシㇼパが靴を脱いだ場面がしばしば描かれており、靴下もしくは足袋のようなものを履いていることがわかります。また足首のところに横線があり、スパッツ状の形状とも思われます。

実は野田先生ご自身は、「山仕事で着用する民族衣装」だとされています。しかし、ここではいくつかの手がかりをもとに、別の可能性を推測していこうと思います。

そもそも、当時の小樽近辺にはタイツや靴下が存在したのでしょうか? あまりにも些末なことに見えるかもしれませんが、あえて学術的に突っ込んで考察してみると、意外と奥が深い話だということがわかります。