「一票の格差」の論点が一目でわかる

選挙の話が出たついでに、「一票の格差」という、30年以上も議論されている問題のポイントはどこかが一目でわかる方法についてお話ししたいと思います。

一票の格差問題というのは、議員1人当たりの有権者数が選挙区によって違うため、人口が少ない地方ほど一票の価値が高くなり、不平等であるという問題です。これまでは、一票の格差は法の下の平等を定めた憲法違反で、正義を欠くものだという議論が主流でした。一方でこの問題の経済効果について論じられることはありませんでした。

日本は異常に長いあいだデフレ、財政赤字から脱却できていないわけですが、これは日本の国会がもたらした(政治的に)合理的な結果ではないのかという仮説を私は持っています。いまの選挙制度が結局、今の財政赤字・デフレをつくったのではないかということです。

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図を見てください。横軸は高齢化の指数です。すなわち高齢者の若者に対する割合です。黒とグレーの●は都道府県です。1.0は、65歳以上の有権者が20~39歳の有権者と同じであるという意味です。1から上だと高齢者が若者より多くて、1未満だとその逆です。衆議院・参議院別、比例区・選挙区は合わせて計算しました。

縦軸は1議席当たりの有権者の数です。右下がりになっているのは高齢化が進んでいるほど議席が取りやすいからです。

2010年の参議院選において、東京都の比例区(定員5人)で5番当選したのはみんなの党の松田公太さんで、約65万票取りました。6番目で落選した共産党の小池晃さんは55万票でした。一方、鳥取県は、比例区の定員は1人です。16万票しかなくても、参議院議員になることができます。比較的若い東京の有権者55万人が、高齢化の進んだ鳥取の有権者に比べて、明らかに発言力がないことになります。

いまの選挙制度は、過疎化の進む地方に有利です。その結果、高齢者の意見が過度に優遇されているのです。これがデフレの根因になっていると考えられないでしょうか。受け取れる金額が決まっている年金受給者にとって、物価が下がることはよいことです。医療費が安いのもありがたい。だからここに手をつけようという候補者は落選する可能性が大です。

2011年3月に、最高裁判所が衆議院に関しては、いまの制度は憲法違反状態という判決を出しました。いまの民主党・自民党は、小選挙区を5つ減らし、比例区は75人削ろうとしています。これはどう考えても変です。一票の格差は改善しません。比例区は人口比例ですから、いまのままで問題ありません。問題は小選挙区のほうです。小選挙区300議席を5つ減らし、比例区180議席中75議席減らすと、加重平均でみた場合、一票の格差は改善されないのです。

いまの選挙制度は正義だけの問題ではなく、経済政策にまで影響を与えています。

※この連載は『フェルドマン式知的生産術』(ロバート・アラン・フェルドマン著、プレジデント社)からの抜粋です。

Robert Alan Feldman(ロバート・アラン・フェルドマン)

1953年生まれ。70年、交換留学生として初来日。76年、イエール大学で経済学、日本研究の学士号を取得。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・ブラザーズを経て、98年、モルガン・スタンレー入社。(現・モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)現在、チーフ・エコノミスト兼債券調査本部長。著書に『日本の再起』(東洋経済新報社、2001年)、『構造改革の先を読む』(同、2005年)『日本経済 起死回生のストーリー』(共著、PHPビジネス新書、2011年)などがある。
(撮影=鷹野 晃)