視聴者の「見る力」を問うクセの強さ…前代未聞の挑戦作『ブギウギ』が“朝ドラ史に残したもの”とは(佐野 華英)

笠置シヅ子さんをモデルに、福来スズ子(趣里)の歌手人生を描いた「連続テレビ小説『ブギウギ』」(NHK総合)が、3月29日に最終回を迎えた。

「さよならコンサート」で歌手人生の最後に歌った「東京ブギウギ」に込めたスズ子の思い、作曲者である羽鳥善一(草彅剛)の思い、涙ながらに聴いている、スズ子と縁(えにし)で結ばれた人たちの思い、客席の熱狂が物語る「羽鳥・福来コンビ」が戦後の日本にもたらしたものが、言葉を超えて迫ってきた。

連続テレビ小説『ブギウギ』(番組公式サイトより)

『ブギウギ』は「歌」で語りかけてくるドラマだった。その時々の人物の気持ちを必要以上に台詞にせず、歌に乗せて、あるいは表情で物語ってきた。「さよならコンサート」での「東京ブギウギ」に回想シーンなど乗せなくても、このドラマを愛した視聴者ならば、各々の心に自然とこれまでのスズ子の人生が浮かび上がってくる。

「画力」で語っていた

「映画は『画力(えぢから)と音力(おとぢから)』で語るもの」、「ドラマは『台詞力』で語るもの」などとしばしば言われる。映画学校出身で助監督を経て、数々の映画に脚本として携わり、自ら映画監督も務める足立紳氏がメインの脚本を担当するドラマだ(本作は全26週中、17週を足立氏が担当、9週を櫻井剛氏が担当した)。足立氏の作劇に引っぱられて、おのずと作品全体が映画的アプローチに寄っていったことは想像に難くない。

その顕著な例で、なおかつ出色の出来だったのが、第10週「大空の弟」だ。この週の脚本は『マルモのおきて』(フジテレビ系)、『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)などで知られる櫻井剛氏が担当した。彼もまた専門学校で映画演出を学び、ドラマの他にも映画の脚本、監督を務めている。

驚かされた戦争描写

日中戦争で出征していた弟・六郎(黒崎煌代)の戦死公報が梅吉(柳葉敏郎)とスズ子のもとに届いた直後、大東亜戦争が開戦し、国民は勝利を信じて熱狂する。

街中の狂騒に飲みこまれて、力なく笑った後、スズ子が周りにつられてバンザイをする47話のラストシーン。困惑、茫然自失、乾いた悲しみ、どこにぶつけていいのかわからない憤り、虚無感。スズ子自身も理解できない様々な感情がごちゃ混ぜになって押し寄せる。「こんな戦争描写もあるのか」と驚かされた。

また、49話のステージでスズ子が歌った「大空の弟」も圧巻だった。羽鳥のモデルである作曲家の服部良一さんが作詞作曲し『ブギウギ』放送の4年前に楽譜が発見されたこの曲。音源が残っておらず、譜面だけが存在する曲を服部良一さんの孫で『ブギウギ』の音楽を担当した服部隆之さんが蘇らせたという逸話も相まって、実にドラマチックなシーンとなっていた。