※本稿は、薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

「診断書が出ているのに休ませない」は、もはやブラック
職場の人間関係、それもパワハラ気質の上司が原因で心身が疲弊した場合など、たとえ、適応障害などと診断されて「休職が必要」という診断書が出ても上司は休ませてくれないのではないか……、と心配になることもあるでしょう。
でも、企業には安全配慮義務がありますから、休養が必要という診断書が出れば、必ず休む方向で話が進みます。企業は、従業員の健康を守らなければいけないからです。
いまどき、診断書が出ているのに休めないという会社があれば、「労働基準監督署に通報されませんか? 大丈夫ですか?」と、こちらが心配になってしまいます。それほど、診断書を出しても突っぱねられるケースはごくまれ。休職前の引き継ぎのために、1週間ほどラストスパートのようになるというパターンはありますが、休めないということはまずありません。
適応障害の診断書を会社に出し、退職勧告された例
ですが、先日はこんなケースがありました。
過重労働で体調を崩されて、私のクリニックに相談に来られた患者さんです。適応障害で休養を要する状態でしたので、その旨を診断書に書いてお渡ししました。その診断書を会社に提出したところ、「1カ月後には退職してください」と告げられたのです。
労働基準法第19条には、使用者は、労働者が業務上負傷したり病気にかかったりして療養のために休業する期間や復帰後30日間は解雇してはならない、とあります。また、労働契約法の第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と、不当な解雇は無効になりますよと定めています。
この方の場合、一定期間の療養を行えば職場復帰できるのですから、ただ適応障害になったというだけで辞めさせるのは解雇権の濫用にあたります。
企業としては、まずはこの方が安全に働けるように配慮をしなければならないのです。それなのに、精神的に疲れて働くことが難しい状況のなか、さらに追い打ちをかけるように退職を迫れば、病状が悪化することは容易に考えられます。いちばん心配なのは、その結果、最悪のケースにつながることです。