※本稿は、薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

産業医が休職を勧めたとき、ほっとする人と拒む人がいる
産業医面談やクリニックの診察室で「体調を整えるために、お休みしたほうがいいと思いますよ」と休職を勧めると、反応は大きく2つに分かれます。
自分自身でも休んだほうがいいだろうなと感じていて背中を押してもらいたかった方は、「お休みしたほうが〜」と伝えると、ほっとされるようです。一方で、「休むなんてとんでもない!」という反応の方もいます。
先日も、ある会社で産業医面談を行ったところ、その社員の方は、家に帰ってもずっと仕事のことを考えてしまう状態で精神的に疲れ切っているものの、「せっかく任せてもらった案件ですから! 今、休むなんてあり得ません!」と頑なに休職は拒否されました。
どう見てもギリギリの状態ですから本来は休んだほうがいいのですが、どうしても本人が首を縦に振らないので、このときには職場に配慮を求めるとともに、本人には心療内科にかかってもらい、主治医のサポートを得ることにしました。
「休むなんて」という反応の裏側には、いろいろなパターンがあります。責任感から、仕事を途中で投げ出したくないという気持ちが強い人もいれば、単純にどうすればいいのかわからなくて休むことに戸惑いを感じている人もいます。
どう見てもギリギリなのに、なぜ「休めません」と言うのか
休んだあとにどうすればいいのか、本当に休んでも大丈夫なのか、そもそも自分は休んだほうがいい状態なのか――。どうすればいいのか分からないけれどしんどい、つらい……と、クリニックに駆け込んで来られる方はたくさんいらっしやいます。「今までこうした経験はありますか?」と聞くと、「ありません」と返ってくることがほとんどですから、初めてのことに戸惑うのは当然のことです。
朝会社に行こうとすると具合が悪くなる……とクリニックに相談に来た方に、詳しくお話を伺って、「それは適応障害という病気ですから、一旦休ませてもらって、環境を見直すとともにしっかり治療して体調を整えたほうがいいと思いますよ」とお伝えしたとき。
「いや、でも……。自分の甘えなんじゃないでしょうか」
「以前も似たようなことがあって、そのときには何とか乗り越えられたので、今回も大丈夫だと思うんですけど……」
といった会話が診察室でなされることはよくあります。