まれに解雇権の濫用をする企業もあるが、企業の1%未満

そうしたリスクがあるにもかかわらず退職を迫ったとなると、企業側は、安全配慮義務違反で損害賠償責任を負う可能性も十分にあり得ます。

「法律をすべて無視した対応を取ってくる企業があるのか!」と、このときには驚きました。ただし、これはごくまれなケースです。

自分のクリニックをオープンしてから1年で800人以上の新規の患者さんを診てきて、そのほとんどが働くなかで適応障害を起こした方々ですが、このように会社側が法律を無視した対応を取ってきたケースはたった数件です。1%もありません。いわゆるブラック企業だと思いますので、働き続けなくて正解だったのかもしれません。

常識的な会社であれば、診断書が出れば休職することができますし、即、解雇という話には決してなりません。そのことは、体の病気に当てはめて考えると、分かりやすいでしょう。

例えば、交通事故で骨折をして1カ月入院することになったら解雇された、がんが見つかったらクビになった――なんてあり得ないですよね。それは、メンタルヘルスの問題でも同じです。

50人以上の会社はストレスチェックを義務化されている

50人以上の事業所にストレスチェックが義務化されて10年ほどになります。ストレスに関する質問に回答して、その結果がフィードバックされる、あのアンケートです。ストレスチェックも、労働安全衛生法上で定められた、従業員の健康を守るために企業が行うべき措置の一つです。

なぜストレスチェックが義務化されたのかといえば、働くなかでメンタル不調に陥る人、メンタル不調を理由に休職・退職する人が年々増えていたから。そうした状況を改善するために、年1回以上、定期的にストレスチェックという心の健康診断を実施する義務が課されました。

ストレスチェックシート
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そして、労働安全衛生法で事業者に課されたのは、それだけではありません。ストレスチェックの結果、高ストレスと判断された人が希望すれば医師の面接指導を行わなければいけないこと、そのことによって不利益な取り扱いをしてはいけないこと、さらに、面接指導を行った医師の助言のもとに必要に応じて就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの対策をとらなければならないといったことまでが企業側に課された義務です(労働安全衛生法第66条の10)。

メンタル不調を未然に防ぐために、本人に自身のストレス状況について気づきを与えるとともに、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげることがストレスチェックの本来の目的なのです。