企業が休職を理由に低い評価をつければ、労働契約法違反に

体調を整えるという意味で、復職後の1カ月ほど、産業医が就業制限をかけることはあります。例えば、他の人のサポートに回ってもらう、時間外労働を禁止するなど、まずは一定の制限のもとに働いてもらって、健康的に働けるかどうか様子を見るのです。でもそれは、あくまでも復職直後の一時的なものです。

人事評価にしても、メンタル不調であれ、その他の病気であれ、休職を理由に低い評価をつけることはNGです。労働契約法の第34条には、人事考課・査定は公正に行わなければならないという「公正査定義務」が定められています。体調不良を理由に評価を下げることは、この公正査定義務違反になる恐れがあります。

そのため、ほとんどの企業では、休職者は人事評価の対象外とする、勤務した期間のみ評価の対象とするといったルールのもとで公正に評価を行っています。

ある企業は、年に1回評価を行い、評価対象となる期間中ずっと休職している人は評価の対象外として、1カ月でも勤務実績があればその期間のみを評価するというルールだそうです。つまり、対象期間中にたとえ3カ月なり半年なり休職していたとしても、そのことを理由に低い評価をつけることはNGで、あくまでも休職前、復職後のパフォーマンスで評価をする、とのこと。

キャリアのことを考えるなら、休職することよりも、不調を抱えながらパフォーマンスが下がった状態で働き続けることのほうが、よっぽど評価に響きます。

ノートパソコンを見て息をのむビジネスマン
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです

心身の健康とキャリアアップはいったん切り離して考える

営業の方の場合、休職したら自分のテリトリーを取られてしまうから、と休職に踏み切れない方もいます。でも、体調が悪いまま、顧客を抱え込んでいても、営業成績は上がらないのではないでしょうか。

薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)
薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)

それよりも、いったん、上長に代わってもらって、チームのメンバーに割り振ってもらい、自分はしっかりと休む。そして、体調が回復して職場復帰したら、また自分に戻してもらうほうが、自分自身にとっても、チームにとってもいいはずです。

大前提として、休職はあくまでも体調を整えるためのブランクです。体調不良があり、それが仕事に支障をきたしているから休みを取って体調を整えましょう、ということ。そうシンプルに考えて、キャリアの話は一旦置いておきましょう。

健康の話とキャリアの話は切り離して考える。これはとても大事なポイントなので、産業医面談でもクリニックの診察室でも繰り返しお伝えしています。

構成=橋口佐紀子

薮野 淳也(やぶの・じゅんや)
産業医・心療内科医

1988年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部に入学・卒業。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクルのほか、10社以上の産業保健業務に従事。2023年より、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し院長を務める。