良心的な興行もある

筆者は2023年4月、よこすか芸術劇場(神奈川県横須賀市)で、松本白鸚のファイナル公演「ラ・マンチャの男」を観劇した。

54年間主役を演じてきた白鸚は、2022年2月に日生劇場(東京都千代田区)でファイナル公演を行ったが、3分の2近い公演日程が新型コロナ感染症の影響で休演となった。仕切り直しとなった公演であったため、観客が劇場に殺到した。

筆者は運よくチケットを取れた。上演された大劇場はオペラハウス仕様で、平土間席を4層のバルコニー席が囲む馬蹄ばてい型の客席になっている

それゆえに高層階の左右の席になるとステージがかなり見にくいか、ほとんど見えない。当日は満席で売り切れであったが、上層階の左右の席はかなりの数が空席だった。販売除外にしたようだ。このように良心的な興行もある。

一方、どうしても観たかったがチケットが取れなかった白鸚ファンも多かっただろう。販売除外されたであろう上層階の空席を見て、正直、チケットが買えなかった人に観させてあげたいという思いもした。しかし、その場合はかなり安価にするべきだろう。

欧米の劇場では、やはり馬蹄型のオペラハウス仕様のコンサートホールが多い。ほとんどステージが見えない席が存在するが、それは観劇マニアや音楽学校生など向けに格安で販売していることも多いようだ。

歌舞伎座(東京都中央区)は、3階の最後部に「一幕見席」という一幕だけ見られる席(通常、昼の部、夜の部とも3幕程度で上演)がある。席は数百円~千数百円という格安料金で設けており、好評だ。注釈付きS席は学生席などとして安く提供し、「明日の観客」(将来の観劇ファンになる可能性のある若年層など)をターゲットにする方法もあるだろう。