「1000円を超えると客が来ない」は本当?
古くからラーメン業界に伝わる「1000円の壁」という言葉。文字通り、ラーメン1杯の価格が1000円を超えるのは難しいという意味ですが、プライシングの専門家としての観点からすれば、「1000円の壁」は必ずしも値上げのハードルにはなりえないというのが本音です。
現在、多くのラーメン屋さんは光熱費と材料費の高騰に悩まされる一方、値上げに踏み切れない状況が続いています。結果として、2023年のラーメン店の倒産は45件(前年比114.2%増)で、前年の2.1倍と大幅に増え、過去最多を記録しました(東京商工リサーチ)。ニュースでは「価格を1000円以上にするとお客さんに来てもらえない」という店主の声が聞かれますが、果たしてそれは事実なのでしょうか?
今回、「1000円の壁」の真偽を確かめるため、ラーメン屋でラーメンを食べたことがある全国の消費者を対象に独自調査を行いました。調査では消費者がラーメン1杯に対してどの程度の支払い意欲を持っているのかをアンケートをもとにあぶり出し、結果に基づいた独自のシミュレーションを行いました。
その結果、売り上げが最大化するラーメン1杯の単価が990円であることが明らかになりました。これよりも価格が上がると顧客数は減少し、それに伴って売り上げも減少していくことがわかります。
1100円に引き上げても売り上げを維持できる
次に、現実により即したシミュレーションを行うため、席数が20席のラーメン店で考えてみます。一般論的に、ラーメン店に必要な面積は1坪あたり1.5席~2席程度といわれており、今回は10坪=20席で試算します。
一人当たりの滞在時間が30分とした場合、1時間で受け入れられる人数は40人が限度です。仮に80人が来店した場合、半数の人にはラーメンを提供することができず、提供可能数は40となります。つまり価格を990円とした場合、売り上げは990円×40=3万9600円です。
では価格を1100円まで上げるとどうでしょう。シミュレーションによれば、顧客数は32.4%減少し、80人から54人まで減ることになります。しかし、席数は40人しかないため、1100円×40=4万4000円となり、価格を上げたとしても理論上、このようなケースでは売り上げを維持できる計算になります。
すなわち、支払い意欲を持った顧客の数が席数(受け入れ可能数)を上回って店の外にもいるような場合には、価格を上げてそのぶん支持者の数が減少したとしても、十分に席が埋まる(売り上げが最大化する)ということもあり得るということです。