母他界後に相続税の申告をしなかった…

川越さんの母親が亡くなったとき、川越さんは相続税の申告をしなければならなかった。ところが、川越さんには相続税についての知識がなく、その結果、一切の手続きをしていない。本来、川越さんに知識があって、相続の発生から10カ月以内に相続の手続きをしていれば、「小規模宅地等の特例」が使えたはずなのにである。

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人と同居していたり、別居はしていても、賃貸住宅に住んでいる相続人(配偶者にも持ち家なし)が被相続人の家を相続した場合、評価額を80%も引き下げてくれるという特例である。

相続人が住まいを失わず、住み慣れた家に住み続けるために設けられている優遇策だ。実際、小規模宅地等の特例を利用する人は多いが、10カ月以内に相続税の申告書を提出しなければ小規模宅地等の特例は使えないという原則がある。すでに相続開始から4年が経過している川越さんにとっては、小規模宅地等の特例を使えなくなっているため、相続税や延滞税などを払わなくてはならない可能性があるわけだ。

相続税の申告書の作成などについては、私が関わるべきでないため、相続税の申告をしていなかったことや、家の名義を変えていないことなどを伝えて、知り合いの税理士に伝えて、申告や納税などの対応をお願いした。家の名義については、相続の手続きが終了したのち、税理士の知り合いの司法書士に繋ぐような手配もおこなった。リバースモーゲージを利用するにも、家の名義が川越さんのものになっていなければ、申し込みができない現実もある。

すでに60代に入っており、鬱病を患っている川越さんにとって、これから働いて収入を得ていくのは現実的ではないだろう。いっぽうで、さまざまな専門家の助けがあれば、親が遺してくれた預金と家を活用することで、生活を成り立たせられる可能性は高くなる。

民生委員と出会った時には、人生に絶望していたそうだが、「引っ越しをせず、この先働かなくても生活は成り立ちそう」という見通しが立ってきた川越さんからは、「死ぬしかないという考えは、頭に浮かばなくなりました」という言葉を受け取った。

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