事業者が価格を決める際に考慮する要素

価格(Price)戦略はマーケティングの基本概念であるマーケティングミックスの「4P」のうちのひとつであり、マーケティング戦略の構築において非常に重要な要素である。

一方で、価格を改定した際の需要を正確に予測することは難しい。

DAZNは、これまでは値上げに対する批判は少なかったが、さすがに直近の値上げには批判の声も少なからず見られた。

これまでDAZNが強気の値上げを繰り返してきた理由、そしてこれからの同サービスの受容性を考えてみたい。

一般的には、商品、サービスの価格の設定要因には下記がある。

1.生産、流通コスト(損益分岐点の考え方)
2.顧客に与える価値(カスタマーバリュー)
3.競合環境(代替サービスの存在)

1について考えてみよう。映像配信サービスにおいては、コンテンツの獲得コスト、制作コストの比率が高く、有形の商材と比べると、変動費は小さくなる傾向がある。つまり、損益分岐点を超えることができれば、急速に利益が出やすくなる。

日本はAmazonプライムの会費が欧米に比べて安い

2と3は裏表の関係にある。映像配信サービスは複数存在し、競争環境も激しい。そうした中で、DAZNはスポーツコンテンツに特化した映像配信サービスとして、独自のポジションを確保している。DAZNが独占放映権を保有しているコンテンツも多く、価格に不満があっても、他のサービスにスイッチするわけにもいかない。

実業家の堀江貴文氏は、直近のDAZN値上げに対して、1月12日、X(旧ツイッター)上に「たった月500円の値上げで限界とか 笑。携帯代とか見直せよ 笑」と投稿している。堀江氏でなくとも、そこでしか見られないコンテンツがあり、それをどうしても見たければ、月額500円程度の値上げは受け入れざるを得ない気持ちになるだろう。

Amazonの有料会員サービス「Amazonプライㇺ」は昨年、年会費を4900円から5900円に値上げしたが、それでも欧米(アメリカは139ドル=約2万円、イギリスでは95ポンド=約1万8000円)と比べるとかなり安い。そこには、日本では、楽天をはじめとするオンラインショッピングモールの競争環境が激しいことが挙げられる。

アマゾンプライムの配達バン
写真=iStock.com/georgeclerk
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2の「顧客に与える価値」について補足しておこう。DAZNはJリーグのタニマチ、すなわち支援者としての役割を果たしてきた。DAZNに加入することは、間接的にJリーグ、あるいはクラブを応援しているとも言える。

加入者の中には、最近トレンドの「推し消費」「応援消費」のような意識で契約をしている人もいるだろう。こういう人たちは、価格をさほど重視しないし、離脱しにくい傾向が見られる。