なぜ開成は中1の6月に相模湖でカレー教室をするのか

【髙宮】そうすると、開成の校長先生として「日本の18歳は優秀だ」「世界に通用する」と考えていらしたのは、少なくとも開成の子たちには自信があり、勉強ができるという理由からだったんですね。

しかし、立場が変わって、偏差値としては開成に及ばない学校の生徒でも、「自信を持たせればもっと伸ばせる」というように考えが変化したということでしょうか。

【柳沢】いいえ。その発言も、開成の生徒だけを念頭に置いていたわけではありません。当時から、いろいろな学校で講演をしたり、模擬授業をしたりして、さまざまな生徒と接する中で感じていたことです。日本の18歳は本当に優秀なのです。

うまく引っ張ってあげると、良いところがたくさん出てきます。それなのに、家庭も教員もその素質を十分に引き出してあげられていません。なぜなら、たいていの親は、子どもが自分の知っている枠の中に収まっていれば安心するからです。

【髙宮】具体的に、家庭ではどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。

【柳沢】もちろん、それは子どもの年齢にもよります。脳科学者によると、子どもの前頭葉の活動が主に成長するのは10歳くらいからだといわれています。脳は後ろのほうから順に成長するらしいのですが、その部分は、運動を司る脳幹や小脳です。つまり、その年齢までは、自分の意思と体の動きを一致させることが大事というわけです。

例えば、卵を割るときに、グシャッとつかんだら潰れてしまいますが、ちょうどよい力加減で、チョンチョンと叩いて殻にヒビを入れ、パカッと開けばきれいに割れます。このように、自分の意思と体の動きをシンクロさせることが、10歳までの課題と言えます。10歳は小学校4年生ですから、それまでは体を動かしておけばいいのです。

【髙宮】受験があるからと言って、ただ机に向かわせるのは逆効果だと。

【柳沢】はい。では、何をやらせたらいいか。それは、家のお手伝いです。

【髙宮】開成の現校長である野水勉先生の、カレー教室の話を思い出しました。開成の子どもたちは、中学1年の最初にカレーを作るそうですね。

【柳沢】はい。6月に実施する学年旅行中の恒例イベントです。最終目的地は富士山ですが、その前に相模湖に行き、カレー教室をやります。それも、ただ作って終わりではありません。今はSDGsの時代ですから、「ゴミの量を最小にしたチームが勝ち」というルールを設けて、グループ対抗で競います。

【髙宮】そこでも競争させるわけですね(笑)。

【柳沢】まず別々のクラスから7人を選んで1グループをつくり、ほぼ初対面のチームでカレーを作ってもらいます。不慣れなため、水を入れすぎてスープカレーになってしまう班が多いのですが、食べ残すとゴミになるので、最後にスープをごくごくと飲み干す生徒もいます(笑)。それぞれの性格や個性が見えて、面白いイベントです。

キャンプでカレーを作る
写真=iStock.com/Yue_
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