知名度ゼロなのに地権者がOKしてくれた理由
そして、念願の小樽への出店への話が舞い込む。
河越さんが説明する。「夢だった小樽に店を出したい。しかし地権者を説得するのが難儀でした」。山陰の老舗の菓子屋でも北海道では知名度ゼロ。「なんで北海道、しかも小樽なのか」。地権者は訝る。河越さんが説得するも地権者の疑念は晴らせない。
すると、なんと地権者は、北海道から米子の本社に電話をかけてきた。観光客を装ったその地権者は「いま私は米子駅です。そちらの会社に伺いたいのだが、どう行けば良いか教えてほしい」と言った。電話を取った女性社員は、観光客からの電話の対応だと思い、普段通りに「分かりにくいでしょうから、私がお迎えにあがりますよ。少しお待ちください」と答えたという。
その後、この地権者は河越さんに「素晴らしい対応で感動した。普段からの対応がこんなに丁寧な御社と仕事がしたい」と話し、契約が決まったという。日々の対応の積み重ねがチャンスにつながると河越さんは振り返る。
そして、1998年に「小樽洋菓子舗ルタオ」が小樽市の観光名所オルゴール堂の向かい側、メルヘン交差点に面した場所に開店した。
いまでは、寿スピリッツグループを代表するブランドに成長。全国的にも美味しいスイーツの定番として定着しており、小樽に限らず北海道に旅行や出張をした人が買ってくる大人気のブランドだ。
なにを隠そう私も、北海道・千歳空港のお土産にルタオの主力商品であるドゥーブルフロマージュやラングドシャなどを買い、後輩社員や番組スタッフに喜んでもらった経験を持つ。
試食作戦や無料配達で人気が少しずつ上昇
開店当初は、認知度不足でルタオは苦戦したが、その美味しさから徐々にファンを増やしていった。味わいを直に知ってもらうため、店頭で積極的な試食作戦を展開。地元の人向けには、一個120円のシュークリームでも無料配達をすると宣伝して、丁寧な配達サービスを行った。イベントにも積極的に参加し、地元の寿司店や和食店とも組んで「食事の後のデザートはルタオ」とキャンペーンをした。
徹底した地元との連携や取り組みにより、ルタオは小樽の美味しいスイーツとしての認知を獲得していった。そして、テレビ番組などに何度も取り上げられるようになり、知名度は全国区となった。
河越さんは語る。「一番人気のドゥーブルフロマージュは北海道産の小麦と生クリーム、牛乳にこだわり、世界から集めたチーズのとろける食感と美味さが最高なのです。美味しくなければリピーター獲得や口コミは獲得できません」。地元に愛される店を作り、マーケティングをし、その上美味しい。これがヒットの最大の秘訣なのだろう。