「言うことを聞いてくれた」が成功体験になってしまう

そしてもうひとつ気を付けなければいけないことがあります。それは、「叱ることがその子のためになる」と叱る側が思い込んでしまうことです。先ほどの子は、叱ることでスマホをやめて宿題を始めたので、叱った側は「言うことを聞いてくれた」と感じるでしょう。この「言うことを聞いてくれた」という感覚は、「叱ると子どもが変わった」という成功体験になり得ます。この成功体験が積み重なると、「叱ることは有効だ」という信念を強め、また次も叱るという行動をしたくなります。

ゲームをする子どもを叱るイメージ
写真=iStock.com/takasuu
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しかし、子どももだんだんと叱られることに慣れてくるので、以前のように「スマホやめて宿題しなさい!」という強い言葉だけでは歯が立たなくなってきます。すると今度は、叱る側が「もっと強く叱らなければ」という思いになり、口調や言葉がさらに強いものとなって、自分は「叱っている」つもりでも、客観的に見たら「怒鳴っている」状況になりかねません。さらには、子どもが言葉でもなかなか言うことを聞かないようになってくると、ついには手が出てしまうことにまで発展する可能性も否定できません。

「叱る」という行為は、あくまで「子どもに行動を変えてほしい」という大人からのお願いです。落ち着いた口調で、どうしてその行動を変えてほしいのか、その行動がどのようにその子の今後に影響するのかを穏やかに伝えてほしいのです。

子どもは自分で自分をコントロールする力を持っている

こういった話をすると、「まずは言うことを聞かせることが大切だ」「子どもに好き勝手させるのか」というご意見をいただくことがあります。しかし、子どもの力を信じているのであれば、まずは「さとす」という方法をとるべきではないでしょうか。子どもは自分で自分をコントロールする力をたしかに持っていますし、その力を今まさに伸ばしている真っ最中です。

だからこそ、「あなたには自分の行動を自分の力で変化させる力があると思うんだ。だから今、あなたがしている行動を変えてほしいんだ」という大人からの願いを、穏やかに伝え、さとしてほしいのです。

子どもに危機が迫っている場面では叱る必要があります。しかし、子どもが言うことを聞かないと感じた場面で、毎回叱る必要があるのでしょうか? そして、毎回叱ってくる人の言うことを子どもは聞きたいと思うでしょうか?

できれば、「いつも叱ってる人」ではなく、「ほとんど叱らない人」になり、いざ子どもを叱る場面では、「いつもは叱らないこの人が叱ってるってことは相当マズいことしちゃったんだな……」と思ってもらえる存在になれたらいいですよね。