もうひとつ、入学時に親の頭を悩ませるのが「寄付金」だ。本来、金銭や財産を無償提供する寄付金は、任意であるはずだが、これから子供が6年間お世話になるであろう学校には、納めておいたほうがいい気もする。もし納めなかった場合、子供の学校生活に影響はあるのだろうか。

一説によれば、納付率が8割に達する生徒や保護者の愛校心が強い学校もあれば、5割に満たないところもあるとのことだが、私立高より私立中、私立中より私立小と、学校の段階が下がるにつれて、寄付金を払う雰囲気が強くなる現象が見られる。

「私立小に入るのはお金持ちの子供が多く、横並び意識が強いため、寄付金を気にする風潮があります」

と説明するのは森上氏。しかしそれが中学、高校へ上がると、中間層の生徒が増えていくので、「絶対に払わなければいけない」という雰囲気は薄まっていく。

「公立から入学した生徒に至っては、『学費はちゃんと払うんだから、寄付金は別にいいでしょ?』と初めから考えていない親も多く、意識が全く違います」(森上氏)

また野倉氏によれば、学校にとって寄付金は大きな財源ではないという。たとえばホームページで財務状況を公開している獨協中・高を見てみると、その収入の内訳は入学金や授業料など、学生生徒等納付金が64%で、補助金が29%。この2つでほぼ9割を占め、寄付金の比率は4%と決して高くない。学校側も「いただければ、幸いです」というスタンスであることは十分に考えられる。

さらに原点に返ってみると、寄付とは金銭的に余裕のある者が、社会貢献の一環として行うものであり、「払える人が払えばいい」という発想は間違いではない。「実際、子供を私立に入れる親の中には、さまざまな事情で高収入を得ている者が少なからずいます」と野倉氏。

「多額の税金を納めるのであれば子供に役立てるほうがいい」という考えのもと、数百万円単位で寄付する大企業の経営者や、毎年数千万円を提供する富豪の存在もある。

「教育環境の充実を期待して、大金を寄付する人は意外に多い。みんなで支えるやり方も悪くないけれど、そんな余裕はないと思うご家庭は心配しなくていいんです」(森上氏)

私立中受験を控えた親の中には、寄付金を払わなければ学校推薦がもらえなかったり、教師に冷遇されたりするなど、現場で差別を受けないかと心配する声もあるが、これに関して心配は全く無用。

学校法人は法律上、現場の教師と金銭の管理をする事務方は完全に別の組織に分かれているため、寄付金を払ったかどうかに関しては、教師たちには何も知らされずノータッチである。寄付金を払わないことが、子供の学校生活にマイナスを及ぼすことはないのである。

学校側が寄付者の名前を名簿にするケースもあるが、それは感謝の意を示すのが目的で、「載っていないから肩身が狭い」と受け取る必要はない。寄付した者に対して、素直に拍手を送ればいいだけの話なのだ。

そもそもこの寄付金、募集している学校は実はそれほど多くはない。東京都が発表している「寄付金・学校債の募集状況」によれば、東京都の私立中高一貫校の中で寄付金を募集している学校は184校中81校。全体の約4割強にすぎない。それとは別に、資金調達のために募集される学校債は184校中9校が発行。こちらは基本的に無利子で、卒業時に元本が返還される。

「最近は『寄付金を取らない』と明言する学校も増えてきました。多くの場合、納付を積極的に募集するのは入学初年度だけですが、慶應義塾のように毎年募集する学校もあるなど、取り組み方はさまざまです」(野倉氏)

では、寄付金はいったい何に使われているのだろうか。気になる寄付金の行方だが、森上氏によると、「一般の寄付金はほとんど設備費に使われている」という。

「一号基本金といって、学校は建て替えのための資金を常にプールしておく決まりがあります。しかし周年事業のようなタイミングで施設を建て替える際、何十億円レベルの莫大な費用がかかるので、その資金は寄付金に頼ることが多い」

森上氏は、今後、新しい寄付金の使い道として奨学金に注目する。

「近年、成績優秀な生徒の学費を免除する特別奨学金制度が増えていますが、高額の寄付金が入ったら、学校はそれを新入生に回していく。その結果、優秀な人材を輩出すれば、学校の名声が上がって在校生も誇りに思うので、考えようによっては設備に使うよりもメリットは大きいはずです。これからは奨学金のような“積極的な使い道”を、学校側も模索していくのではないでしょうか」

寄付金とはあくまで「志」。たとえ今は払わなくても、子供が卒業後に大成したら将来的に寄付すればいい、ぐらいの心構えで十分なのかもしれない。

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