ヤクザは抗争などのケガをどのように治療しているのか。ノンフィクション作家の尾島正洋さんは「『闇医者の世話になる』というイメージがあるかもしれないが、ほとんどのヤクザは国民健康保険に加入しており、ケガをしたらまっさきに救急車を呼んでいる」という――。(第1回)

※本稿は、尾島正洋『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

走る救急車
写真=iStock.com/XH4D
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自動小銃でハチの巣にされた山口組幹部

「今後、『大きな音(銃声)』が聞こえてきますよ」――六代目山口組が分裂し神戸山口組との間で対立の構図が決定的になった際、関西地方に拠点を構える六代目山口組系の幹部は、そう予言めいた不気味な見通しを口にしていた。

暴力団業界では拳銃の銃声を、しばしば「音」と表現する。

「音が鳴らずに済むわけがない。済ますわけにはいかない」と何度も聞かされていたが、その予言通りの事件が続発した。「ハナクマで音(銃声)が鳴った」――2019年10月10日、業界に情報が駆けめぐった。「山健組」は神戸市中央区花隈町に事務所を構えることから通称「ハナクマ」と呼ばれている。その事務所近くでこの日、山健組系の組員二人が拳銃で射殺された。実行犯は六代目山口組弘道会系の幹部だった。

銃撃事件はさらに続いた。

同年11月27日、兵庫県尼崎市の商店街で神戸山口組幹部の古川恵一がM16自動小銃で銃撃され、数十発の銃弾を浴びて殺害された。M16は米軍が正式採用している強力な火器で、遺体はハチの巣状態だったという。逮捕されたのは、六代目山口組竹中組系の元組員、朝比奈久徳だった。

山健組の組員二人を射殺した弘道会系の幹部は逮捕後に病死したが、古川をM16で殺害した朝比奈は無期懲役の判決が確定し服役した。暴力団の対立抗争事件などで拳銃を使用した場合、近年は裁判で厳罰が下される傾向がある。殺人事件ともなると、無期懲役が相場である。

事件は兵庫県尼崎市の商店街で夕暮れ時の買い物客が多く行き交う時間帯だったこともあり、判決では、「一般市民にも被害が及びかねなかった」と強く非難した。