薬とうまく付き合うにはどうすればいいのだろうか。医師の和田秀樹さんは「今の医療では、本人の体調のためではなく、『数値』を下げるために薬を処方している。常用薬があって、だるさやふらつきのある人は、医者に薬を減らすことを相談すべきだ」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、和田秀樹『60歳からは、「これ」しかやらない』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

薬のイメージ
写真=iStock.com/Marina Kositsyna
※写真はイメージです

「薬を飲めば病気にならない」わけではない

高齢になると、薬の量が増える。これを多くの方が「当たり前」ととらえています。

高齢者のなかには、1日に10~15錠もの薬を飲んでいる方が珍しくありません。まさに「薬漬け」に近い状態です。

これは、果たして健康にいいことでしょうか?

薬というものは、本来、体に不調があるときに飲むものです。ところが今の医療では、本人の体調のためではなく、「数値」を下げるために薬を処方しています。健康診断の数値に異常があれば、それを基準値に戻すことが目的となっているのです。たとえ、本人の自覚ではいたって元気であっても、です。

それでも、薬を飲むことで病気が防げるなら、いいことだと思われるでしょうか。

ここで、データを一つご紹介しましょう。アメリカでのある調査です。

血圧が160mmHgに達している人を、降圧剤を飲む人と飲まない人に分けて、6年後に脳卒中になる確率がどれだけ違うかを調べた結果、薬を飲んでいて脳卒中になった人は6%でした。一方、飲まなかった人では10%でした。

高齢者が「薬漬け」になってしまう本当の理由

この結果を、みなさんはどう見ますか?

「明らかに差があるのだから、飲んだほうがいいだろう」

そう思われる方が多いかもしれません。この調査でも、そう結論付けています。

しかし、見方を変えると、「薬を飲んでいても、6%の人は脳卒中になる」とも言えます。さらに言うと、「飲んでいなくても、9割は脳卒中にならない」という見方も成り立ちます。

このように、薬は「病気にならない」ためではなく、「病気になる確率を下げる」ためのものです。日本では、薬を飲み続ける人ほど寿命が延びるという証拠になるデータも、今のところ出ていません。それでも医者は、「薬を出しておけばいい」としか考えないのです。

高齢者の薬の数が増える理由としてもっとも大きいのは、医療の専門分化です。各科の専門性は高くなりますが、その分、専門外のことには疎く、体全体のことを考える意識も希薄になっているのです。

高齢者はたいてい、体のあちこちに不調を抱えています。ですから、一人の患者がたくさんの診療科を回ることになります。その先で、それぞれの医者から「数値を下げるため」の薬を受け取る。これが「薬漬け」を招くのです。