人間「本来」の集団の大きさは約150人
社会脳仮説の核心は、種ごとの典型的な社会集団の大きさと、脳の大きさ――厳密には新皮質の大きさ――が単純な相関関係にあることだ。私たちが知恵をめぐらせるときに活躍するのが新皮質という脳の部位で、霊長類では、新皮質は脳のほかの部位にくらべて桁外れな進化を遂げてきた。
哺乳類全体では、脳の容積に占める新皮質の割合は10~40パーセントだが、霊長類では最低でも50パーセント、ヒトでは80パーセントに達する。霊長類の新皮質の大きさと集団規模の関係から、人間「本来」の集団規模を見積もることができる。サルと類人猿で得られる方程式に、ヒトの新皮質の大きさを代入すればいいだけだ。この式から予測されるヒトの集団の大きさはおおむね150となる。
この計算結果は、人間の自然な共同体の大きさ、もしくは個人の社会ネットワークの大きさ(友人と家族の数)を調べた20以上の研究で裏づけが得られている(*5)。共同体の大きさは、狩猟採集社会、小規模農業社会の村落(ドゥームズデイ・ブックという土地台帳に記録が残るノルマン朝イングランドの村、中世アルプスの放牧組合など)、さらには近代軍隊の部隊や学術研究の諸領域、ツイッターでのつながりの規模からはじきだされた。
フェイスブックの「友だち」が多い人の特徴
個人の社会ネットワークは、クリスマスカードの送り先、SNS(接触を保っておきたい友人や家族が全員入っている)、電話の発信回数(ヨーロッパと中国で調査されている)、結婚式の招待客一覧、電子メールのアドレス一覧、フェイスブックに登録されている友だちの数(ある研究はフェイスブックの利用者6100万人が友だち認定した数をサンプルにした)、科学論文の共著ネットワークから測定された。
その平均値はすべて100~200人のあいだに収まり、全体を平均するとほぼ150人だった。調査の対象と期間が多様だったにもかかわらず、数字は驚くほど一致している。ここで大事なのは、これは私たちが種として存在するようになってからの95パーセントを過ごしてきた社会の形態、つまり狩猟採集社会の典型的な大きさということだ。
社会集団の大きさは脳の大きさが決める――この説をさらに裏づけるのが、十数件にのぼるヒトを対象とした脳画像研究だ。友人や家族(被験者が提出した名簿や、フェイスブックで認定した友だちを数えた)が多い人ほど、脳の特定領域の容積が大きいことがわかったのだ(*6)。
密接につながったこの脳領域はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれ、前頭前皮質、側頭葉、側頭頭頂接合部(TPJ)、大脳辺縁系にまたがっている。このネットワークは、感覚入力の処理のみを担当する脳領域(脳後部のほとんどを占める視覚系など)を除いた新皮質の大部分を占めている。これらの脳領域は生命を持つものを認識し、他者の信念や精神状態を理解して、さまざまな関係を管理する。