愛するペットの治療に、あなたはいくらまで出せるだろうか。医療ジャーナリストの木原洋美さんは「50代女性のケースでは、獣医師から『膀胱の全摘手術で70万円』と告げられ、治療を断念するしかなかった。この事例は、動物の感受性を尊重する『動物福祉』を考えるうえで、大変参考になる」という――。
50代女性の愛犬。元気なころ。
写真=筆者提供
50代女性の愛犬。元気なころ。

朝の散歩で、愛犬は真っ赤な血尿を出した

「膀胱がんですね。◎△動物医療センターに仮予約したのでCT検査を受けてください」――エコー画像を指し示しながら獣医師は淡々と言った。

50代女性の愛犬(オス)は当時12歳。その日は土曜日で、大学生の娘と連れ立って朝の散歩をしていた途中、真っ赤な血尿を出した。過去何回か膀胱炎で、薄っすらとピンク色の尿をしたことはあったが、これほど真っ赤なのは初めてだった。慌てて愛犬を抱きかかえ、幼犬の頃からかかっている動物病院へと駆け込んだ。診断の参考にするために血尿もティッシュペーパーで拭き取って持参した。

(まさか、膀胱がんだなんて)

病名を聞いたとたん頭の中が真っ白になった。と同時に不安になった。愛犬は先天性の障害があったためペット保険は未加入。獣医師が予約した動物医療センターは最高の治療が受けられるが、それだけに高額だ。かつて歯の疾患で同センターを受診した際には、動物専門の歯科医と麻酔科医、消化器科医が3人がかりで診てくれて、1日の入院+治療費は9万円を超えた。手厚さから考えれば決して暴利ではないと思う。だが、気軽に出せる金額ではない。ましてCT検査は高額だと聞いている。払いきれるだろうか。