国民の反対を無視して「伝家の宝刀」を抜いたものの…
そして、社会党出身のボルヌ首相(女性)に年金改革を託し、共和党も準与党として協力させて、議会を乗り切ってきた。なかなか賢い手腕だが、その経歴と上から目線の物言いがたたって、新型コロナ対策や経済、外交面で実績の割には人気がなく、年金問題では肉体労働者などのつらさが分からないだろうと批判されている。
さらに、タックスヘイブンだけでなく、EUではアイルランドが低い税率を武器に企業を集めているように、主要国同士でも税率は微妙に違うため、超大企業や富裕層への課税強化は思うように進んでいない。その責任もマクロンは問われている。
その結果、今回の改革案には、国民の70%が反対し、国民議会(下院)でも造反で可決されない可能性があった。そのため、審議を打ち切って、「24時間以内に提出された内閣不信任案が可決されない限りは法案は成立する」という憲法49条3項の強権措置を発動したので、ますます反対派は抵抗を強めているという状況である。
この条項は、総論賛成、各論反対で何も決められないという状況を許さないためのもので、ドゴールの遺産とされる「伝家の宝刀」であり、歴代大統領はなにかにつけ使ってきた。だが、今回は、やむをえないという演出がうまくいかず、とにかく評判が悪い。
早く引退して余生を楽しみたいフランス人
フランス人に限らず、ヨーロッパの人たちは、仕事のなかに人生の価値を見いだす人はあまりいない。アフターファイブや、バカンスやリタイア後を自分らしく楽しくすごすために仕事は仕方なくしているのである。そして、本を読んだり、手紙を書いたり、スポーツしたりしながら時間を過ごすことに無上の喜びを見いだす。
働き者のドイツ人にしても、「ドイツ人は1カ月をイタリア人として過ごすために、11カ月ドイツ人として働く」といわれるほど休暇が好きだ。プロテスタントの人々には、勤勉主義の価値観もあるが、カトリック国のフランスにはそんなものは似合わない。
また、世界中で平均寿命が予想を速まる速度で延びており、年金や医療保険会計などへの重圧になっている。
フランスの医療政策は優れていて、平均寿命は、1960年に70歳だったのが、1992年には75歳、2004年に80歳、そして2020年には82.2歳になった。日本よりは2歳ほど低いが、ドイツや英国よりは高い。新型コロナでも、ワクチン接種を義務化に近いほど進め、その代わり接種者には行動の自由を認めて経済との両立も図った。この政策が成功し、平均寿命の低下も少なく抑えられたが、喜んでばかりもいられない。