問題があったときに「しか」話題にされない
首長選挙をめぐっては、東京都江東区長選が話題になっている。
今年4月の同区長選で、木村弥生区長(15日付で辞職予定)の陣営が選挙中に投票を呼びかける有料のインターネット広告を流した疑いが持たれている。木村区長が東京地方検察庁特別捜査部の捜査を受けているほか、自民党の柿沢未途衆院議員が、その広告を勧めたことが明らかになり、法務副大臣を辞職した。
本稿では、この事件そのものについては論じないものの「地方政治の困難」という点で、ここまで取り上げてきた問題発言と通底する。
その背景にあるのが、地元マスコミとの歪な関係である。
政治家とマスコミが癒着している、わけでは、まったくない。秋田魁新報は先に見たように佐竹知事に厳しすぎるぐらいに報道しているし、小椋市長への在阪テレビ局の当たりも強い。江東区についても、東京新聞や全国紙の都民版は連日大きく報じている。
では、何が問題なのか。
まさしく、こうした姿勢が地方政治の難しさを象徴しているのである。それは、問題があったときに「しか」話題にされない、その瞬間性にある。SNSで沸騰しなければ、市長や区長はもちろん、仮に県知事の動きであっても、その地域の外には、まったく広がらない。
地方政治に何が求められるのか
近年では、新聞もテレビもウェブ配信に注力している。
今回の佐竹知事の「放言」も秋田魁新報が「電子版で報道。記事は交流サイト(SNS)上で一気に拡散され」たと、同紙みずから報じている。拡散するには、見出しで人目を引かなければならない。パンチの効いた、派手な文言が必須である。
一連の発言や、区長選挙をめぐる疑惑は、確かに広く知らされるべきであるし、そのために、多くのマスコミ関係者が頭を絞っている。誇張しているわけでも、過小評価しているわけでもない。事実をベースとしてはいるものの、しかし、それゆえにこそ、角度のつけかたとして、「大問題」であるかのような空気がつくられてはいまいか。
「信念」を持った首長たちと、それに対して批判のまなざしをむけるマスコミ、両者の関係は、文字面だけを見れば健全だろう。
地方政治が話題になるのは「問題発言」や不祥事のときに限られつつあるのだとすれば、それは、歪と言わざるを得ない。
けれども、希望はある。
「貧乏くさい」発言をきっかけに、じゃこ天ブースと、秋田のきりたんぽ鍋がイベントで向かい合い、大盛況だったという(*9)。さらに、11月15日には、秋田県と四国4県が東京都内で合同の物産展を開く(*10)。
地方政治にもマスコミにも、こうしたささやかだけれども、みんなに希望を与えられる、きっかけづくりが求められているのではないだろうか。
(*1)「秋田県知事 四国地方の料理『貧乏くさい』発言で謝罪」NHK NEWS WEB、2023年10月25日17時24分配信
(*2)農林水産省「うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味」
(*3)「知事 追い込まれ陳謝」秋田魁新報、2023年10月26日朝刊
(*4)「知事発言のじゃこ天 秋田のギフトショップで飛ぶように売れる」NHK秋田 NEWS WEB、2023年11月4日16時34分配信
(*5)以下、佐竹知事の発言については、(*3)で挙げた秋田魁新報の記事による。
(*6)「滋賀 東近江市長 フリースクールめぐる発言 謝罪も撤回はせず」NHK NEWS WEB、2023年10月25日12時54分配信
(*7)「東近江市の小椋正清市長に発言撤回を求めて『約3万6000人分の署名』を提出」MBS NEWS 、2023年11月1日19時08分配信
(*8)「『世論とかけ離れている認識はない』フリースクール発言の東近江市長 市議会で改めて持論を展開」関西テレビNEWS、2023年10月31日20時50分配信
(*9)「じゃこ天ブースの向かいに秋田のきりたんぽ鍋が…『貧乏くさい』発言の影響か両ブースは過去再考売り上げの大盛況」TBS NEWS DIG、2023年11月6日18時27分配信
(*10)「『秋田県民』トレンド入り 知事のじゃこ天発言受け愛媛で『爆買い』も 15日都内で合同物産展」日刊スポーツ、2023年11月3日13時16分配信