さまざまな断食の方法
ルイジアナ州立大学の最近の研究では、過体重の被験者が午前8時から午後8時のあいだに、つまり大多数の人の平均的な食事の時間帯に1日のカロリーを摂取した。だが研究チームが、夕食を抜いて午後2時に食べるのをやめるよう被験者に指示すると、ブドウ糖ではなく、脂肪の燃焼(つまりケトン)が増加した。また、代謝の柔軟性の改善も見られた。要するに炭水化物と脂肪の燃焼の切り換えを行うスイッチの働きがよくなったのだ。
このほかにも、目下研究が進んでいるファスティング法がある。1日おきのファスティング(16:8メソッドのような「時間制限による食事」の方法)や、断続的な超低カロリー食(VLCD)だ。このVLCDのもとになる理論は、炭水化物の摂取の有無にかかわらず、身体が蓄えられた燃料を放出してエネルギー不足に対応するというものだ。これは、「断食模倣食(FMD)」といわれ(ヴァルテル・ロンゴという研究者が提唱した食餌療法)、老化や糖尿病、ガン、神経変性疾患、心血管疾患のリスクを減らしたり、バイオマーカーの数値を下げたりといった大きな恩恵にあずかれる可能性があるという。
ガン治療への有効性も研究されている
ケトン食療法は、てんかんの有効な治療法として、80年にわたり臨床現場で実践されている。発作を劇的に減らし、脳の炎症を抑える効果があるのだ。この療法は、かなり効果的で安全性も高いので、現在は、ほかのたくさんの神経疾患の治療法の選択肢としても評価されている。
片頭痛、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)はすべて、脳の過剰な炎症と関連している。理論的には、こうした病気のどれもが治療だけでなく、予防効果もケトンから得られるかもしれない。ケトン食療法は、軽度認知障害――認知症の前駆状態の患者や、初期のアルツハイマー病の患者の記憶障害を改善することがわかっている。
このケトン食療法は、ある種のガンの治療にも有効かもしれないと考えられ、研究が進んでいる。そのようなガン細胞は、インスリンの濃度が高い状態で増殖し、ほかの場所のように「ハイブリッド・テクノロジー」の恩恵に与かれない。つまり、ケトン体では生き延びることができない。とはいえ、ガン細胞はかなり有害な環境でも回避したり、変異したり、適応したりするので、効果が長期的に続くかどうかはわかっていない。だが結局のところインスリンと、それと構造がよく似た「インスリン様ペプチド」、つまりIGF-1とIGF-2が、どんな細胞にとっても強力な成長因子となる。なぜなら正常な細胞にも、ガン細胞にも、それを取り込む受容体があるからだ。
神経変性疾患の治療であれ、二型糖尿病の患者の代謝のリセットであれ(ケトン食療法は、平均するとわずか1日でインスリンの血中濃度を半減し、血糖のコントロールを改善する)、体脂肪を短期間でごっそり落としたい人であれ、ケトン食はかなり見込みのある療法といえるだろう。