今後も「住職殺し」の惨劇が続く可能性がある

東京都の寺で住職が殺害される事件が、発覚した。逮捕された容疑者は、寺に出入りしていた石材会社の幹部2人。霊園事業を巡る対立が原因とみられている。一部供述では石材店側が「宗教を問わない」販売を望んだのに対し、住職は「既存の仏教徒」に限定したと伝えられている。近年、寺と周辺産業に関わるトラブルは各地で起きているが、そこには多死社会における寺院と業者とのせめぎ合いの構図が見て取れる。

お墓参り
写真=iStock.com/Wako Megumi
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事件は今年7月に起きた。東京都にある寺の住職が、地下納骨堂で倒れ、死亡したのだ。納骨堂内には火がついた練炭が28個も置かれており、一酸化炭素中毒に陥ったとみられる。

また、境内の焼却炉には、ガソリンが入ったペットボトルが十数本置かれていた。現場には他殺を思わせる多数の物的証拠が残っており10月7日になって、寺に出入りしていた石材店「鵠祥堂」の代表取締役・齋藤竜太容疑者と、役員の青木淳子容疑者が逮捕された。

容疑者は納骨堂内で住職の殺害を果たせなかった場合、焼却炉を爆発させるつもりだったらしい。住職に対する極めて強い恨みと、殺意があったことが窺える。両者の間で何があったのか。

供述によれば、犯行の動機は「霊園の販売に関するトラブル」だったようだ。墓地区画の販売に関し「仏教徒限定」にこだわる住職と、「広く無宗教で集客」を目指したかった容疑者らとの間で対立が生じていた。一部報道では、当初契約で無宗教式での販売での合意がなされていたにもかかわらず、住職が契約者を「檀家」として取り込もうとし、トラブルが生じていたという。実は、こうした寺院と業者を巡るビジネス上のトラブルは、水面下ではかなり起きている。

本事件の背景を探るポイントはいくつかある。ひとつは、被害に遭った寺が「浄土宗系の単立寺院」であったことだ。つまり、儀式は浄土宗のやり方に準じるものの、宗門には所属しない独自運営の形態であった。

実は、単立寺院は近年、増加傾向にある。全国に7万6774カ寺ある寺院のうち、2789カ寺が単立寺院である(文化庁「宗教年鑑」2022年)。ちなみに2013年調査では、単立寺院は2660カ寺。この10年で129カ寺増えていることになる。