墓石で稼ぐ石材店が墓じまいで稼ぐ本末転倒

寺院はなぜ宗門を離脱して単立化を目指すかといえば、宗門の規約や同門寺院の目を気にせず、自由に寺院運営ができるようになるからだ。また、寺院収入に応じた宗門への上納金の義務もなくなる。

同寺の単立化の背景は不明だが、単立化は収支改善などを目的として、大規模に事業を展開したい寺院がしばしば取る手段ではある。他方で、単立寺院になれば、伝統に裏打ちされた宗派の後ろ盾がなくなるので、社会的な信用性が薄れたり、長期的には後継者の養成問題が生じたりする。

真宗大谷派(東本願寺)が運営・管理する東大谷墓地
写真=iStock.com/Sean Pavone
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もうひとつのポイントは、寺院と石材店(周辺産業)の関係性である。寺院と関係が密な業者はおもに4業種ある。墓石店、仏具店、法衣店、そして葬儀社だ。そのいずれの業界も、近年の葬送の希薄化、多様化などによって、概して厳しい経営状況にある。

特に墓石業界は、旧来型の家墓の新規建立が減少傾向にある。近年、人々の終活意識が高まったことで、コスト面や継承面で不安を感じた消費者が、先祖代々で継承していく家墓を敬遠しているのだ。高度成長期やバブル期までは、真鶴の小松石や高松の庵治石など、数百万円はくだらない国産の高級石が売れた時期であったが、近年は中国などの安価な輸入石材におされてきている。

墓石が売れない上に、最近では「墓じまい」ブームが高まっている。中には「墓じまい」をメインに手がけることで事業を継続するような、本末転倒な墓石店も少なくないのが実情だ。

さらに、都会の寺院では、永代供養型の納骨堂や樹木葬が主流になりつつある。また海洋散骨を選ぶ人も増加傾向にあり、石材そのものが使われなくなってきているのだ。

石材店の倒産も増えてきた。2019年10月には、関西で最大級の取り扱い霊園数を誇っていた丸長石材が大阪地裁に民事再生法適用を申請し、全事業を別会社に譲渡。さらに、今年に入っても茨城県の大塚石材工業が破産するなど、業界は冬の時代に入っているといえる。