決着をつけた大物財界人

画質のクオリティは、ソニーのほうがはるかに良かったのですが、いざやるとなったら、向こうは2時間、ソニーは1時間、それが勝敗の分かれ目で、残念ながら、世界ではソフトウェアを見る人のほうが多かったというわけです。

ただ、テレビを録画して自分の都合がいい時に見るというコンセプトは、世の中に植え付けられました。それは、昭夫の“タイムシフト”というコンセプトが元と言えます。とはいえ、悔しかったですね。最後の瞬間は、松下さんがどっちに転ぶか、それで決まったみたいです。

ベータマックスとVHS
ベータマックス(上)とVHS(写真=Ya, saya inBaliTimur/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

私は、松下幸之助さんに会って、愛知県の幸田町にあるソニーの工場にも案内したことがあるのです。幸之助さんには、個人的に3回ぐらいお会いしました。ライバルであっても、その頃の各社の社長とも交流がありました。松下さんだけでなく、シャープさん、三洋電機さんとも大阪へ行くと一緒に食事をしたりしました。

結局、世の中にベータマックスを受け入れてもらえなかったことについて、私だけでなく、みんなが感じたことがありました。

ソニーはどっちかと言うと、クオリティでは絶対負けないという思いを持っていましたが、その時のお客様はソフトウェアが大事なのだと考えていました。クオリティがちょっと低くても、ソフトでちゃんと満足できたほうがいいのだと。

決してクオリティでは負けていなかった

われわれは、エンジニアとして、クオリティばかりこだわっていましたが、お客様の側から見たら、そこが一番ではないかもしれない。やはりお客様が何を欲しいのかということをきちんと考える必要があり、商品がいいだけではものは売れないということは、ものすごい教訓になりました。

ただ一つ付け加えさせていただくと、業務用放送機器ではソニーは断トツシェアトップで、ニュース、ドキュメンタリー、ドラマなどの撮影にソニーの機器が使用されています。ソニーの製品がなければ、テレビ放送は成立しないと言っても過言ではないほどで、クオリティにこだわったソニーのコンセプトは決して間違いではありませんでした。

映像のプロフェッショナルの世界では、ソニーの優位性が保たれており、ソニーが貫いたポリシーとこだわったクオリティを評価して価値を認めてくれる方々が今でも多くいます。これは私にとっても誇らしいことです。