65歳以上の転職&年収アップも増加している

内閣府が公表した「令和5年度 年次経済財政報告」(以下、経済財政報告)は、そうした労働市場の変化を詳細にまとめた。2013年以降、転職者の割合(過去1年以内に勤め先を変えた者が就業者全体に占める割合)は緩やかに上昇した。世代別に推移を確認すると、20代、30代に加え、足許では65歳以上の転職も緩やかに増加した。転職の前後で年収も増加した。

どのような職種で求人が増えているかを確認すると、IT・通信分野でのエンジニア、企画や管理などの職種に対する需要の増加は顕著だ。賃金の水準に着目すると、男女ともに年収800万円を超える場合の転職も増加した。

労働市場の流動性が向上する兆しが出始めた要因として、人手不足の深刻化は大きい。少子化、高齢化によってわが国の生産年齢人口は減少した。また、バブル崩壊後、わが国の経済は長く停滞した。旧来の雇用慣行で高い成長を目指すことは難しくなりつつある。

また、コロナショックなどをきっかけに、世界のデジタル化は加速した。事業の継続に必要な人員、特に、今後の成長に欠かせないデジタル関連分野でのプロを獲得するために、企業は賃金を積み増さなければならない。そうした現実を理解する企業トップは増えている。

データが示す転職する人の“2つの特徴”

これまでの年功序列の賃金体系では、組織の中で個人がどれだけ高い成果を上げたとしても、周囲を大きく上回る給与を手に入れることは難しかった。その対価として、雇用そのものは安定している。従来の雇用慣行が長く続いた結果、年功序列、終身雇用が普通の状態との認識はかなり定着していた。

ただ、最近、それが徐々に変化し始めた。労働市場の流動性が徐々に高まったことにより、企業への貢献に従って、柔軟に給与が増えることに気づく人は増えた。それは労働市場の変化がわたしたちに与えた最大の影響といえる。

経済財政報告は、この点に関しても重要なデータを記載した。転職を促進する要因にはさまざまなものがある。その中でも経済財政報告は、教育の修了レベル、自己啓発の有無に関する重要な点を指摘した。前者に関して、大学の学部卒業者よりも院卒者のほうが転職の確率は高まった。また、自己啓発に励む人のほうが転職の可能性は高まった。