働きがいを実感している人はたったの5%

共通するのは、より高い専門的な知識や技術を身につけたほうが、より高い賃金を手に入れる確率は高まることだ。また、転職した人の感想として給与のみならず、働くことへの満足度も高まった。

その意味は大きい。米ギャラップの調査によると、2022年、わが国で働きがいを実感している人(熱意を持って働く人などを意味するワーク・エンゲージメントとも呼ばれる)の割合は5%だった。イタリアと並んで世界で最低の水準だった。イメージとして、わが国では成長の期待と事業運営の効率性が高まりづらい企業、業種に労働力が塩漬けにされた。

しかし、その状況は徐々にではあるが変わり始めた。自ら新しい理論などを学びなおして世の中の変化に対応し、より効率的に付加価値を生み出すスキルを発揮することによって、賃金を増やすことができる。さらに高度な理論に習熟し企業への貢献度を高めることができれば、より高い給与を手に入れる可能性も高まる。それに気づく人は増えつつある。

オフィスで話す人たち
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高年収を提示できない企業は淘汰される恐れ

今後の展開を予想すると、人手不足と優秀な人材の不足、2つの掛け算によってわが国の労働市場の変質は加速するだろう。これまでの年功序列などの価値観は崩れ、能力主義は徹底されるだろう。

それに伴い、同じ業種内で、より高い賃金が得られる企業に移る人は増える。在来分野から成長期待の高い分野へ、業界の垣根を飛び越えてキャリアチェンジを目指す人も増える。文系と理系の境界線も曖昧になる。文系出身者がデータ分析の分野で活躍したり、理系出身者が企画や業務管理などの分野で存在感を発揮したりするケースも増えるだろう。

企業経営者は実力あるプロ人材を増やすために、これまで以上に賃金の引き上げを真剣に考えなければならなくなる。反対に、魅力ある賃金の水準を提示できない場合、企業が淘汰とうたされる恐れは高まる。

経済全体として考えた場合、それは本来あるべき方向に労働市場が向かいつつあることを意味する。資本主義の経済では、市場の価格メカニズムによって、より効率的に付加価値を生み出せる企業、産業にヒト、モノ、カネが集まる。