「追加発表」で選ばれるアーティストの特徴

ならば近年の定番となっている「“12月に入ってからの追加発表”なら間に合うのではないか」という声もあるが、NHKがよほどキャスティングに困らない限り難しいだろう。

たとえば昨年の追加発表は、藤井風、松任谷由実、加山雄三、milet×Aimer×幾田りら×Vaundy、back number、桑田佳祐 feat. 佐野元春、世良公則、Char、野口五郎、THE LAST ROCKSTARS、安全地帯とテレビ出演の少ないアーティストに限られていた。

追加発表には、日ごろテレビに出まくっていたジャニーズとは真逆の希少性やサプライズ感が求められているのだ。少なくとも業界内では「1980年以来、44年ぶりの出場ゼロ」という見方が日ごとに増している。

では、ジャニーズのタレントが出演しないことになった場合、今年の『NHK紅白歌合戦』はどうなるのか。

ここ5年間を振り返ると、2018年は5組、2019年は5組+ジャニーズJr.によるジャニー喜多川の追悼企画、2020年は7組(Snow Manは辞退)、2021年は5組、2022年は6組が出演した。ジャニーズのタレントが出なければ、5・6組のアーティストが代わりに出演することになる。

例年、『NHK紅白歌合戦』の選考基準は、「その年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」の3つ。セールスやストリーミングなどにとらわれすぎず、NHKが行う世論調査の結果や、企画・演出を重視して先行すれば、「5・6組の枠は埋められる」などと深刻に見られていない。

ステージを撮影しているカメラ
写真=iStock.com/BirdHunter591
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「代わりのアーティストがいくらでもいる」

民放のあるテレビマンと話したとき、「脱アイドル路線を打ち出す最大のチャンス」「各ジャンルの一流に声をかければいいだけではないか」「むしろ日本一の音楽番組というイメージを取り戻せるかもしれない」と言っていた。

たとえば、ジャニーズ以外の男性アイドルやダンスボーカルグループ、新旧の人気バンド、レジェンドシンガー、ネット発、海外アーティストを1組ずつ集められたら枠は埋まるだろう。

その意味でNHKは日ごろさまざまなジャンルの若手アーティストを『Venue101』、実力派の中堅・ベテランを『うたコン』でオファーしていて、しかも両番組は『NHK紅白歌合戦』と同じ生放送。また、大物アーティストを特集した『SONGS』や『NHK MUSIC SPECIAL』などの音楽番組もあり、多くのアーティストや芸能事務所との関係性を築けている。

だからこそ今年の「ボーダレス -超えてつながる大みそか-」というテーマにふさわしい、世代、ジェンダー、ジャンル、国籍などを超えたアーティストを集められるはずだ。

この2週間程度、取材した限りでは、「NHKが視聴率さえ気にしすぎなければ、芸能界には代わりのアーティストがいくらでもいる」と見なす声が多かった。

もともとジャニーズファンの熱気や動員・物販の強さは間違いなく認められている一方で、彼らを純粋にアーティストとして見ているかと言えば疑問符が付いてしまう。もちろんタレント本人たちに罪はないが、忖度そんたくという恩恵を受け、正当な競争が行われてこなかった以上、仕方がないように見える。