岸田首相は総裁選で敵を作らないことに徹した
名誉職である麻生太郎副総裁の続投は既定路線としても、松野博一官房長官、萩生田光一政調会長、西村康稔経産大臣、高木毅国対委員長、世耕弘耕参院幹事長の安倍派5人衆が全員留任し、2021年の自民党総裁選で岸田首相が戦った高市早苗経済安保大臣、河野太郎デジタル担当大臣も閣内で仕事を続けることになった人事はあまりに露骨だった。
岸田首相は内閣改造で彼らを続投させることによって党内の基盤強化を図り、総裁選での敵を作らないことに徹したのである。
一方で、それ以外の閣僚人事は刷新感の演出に使われた。
麻生派重鎮の鈴木俊一財務大臣と公明枠の斉藤鉄夫国交大臣を残しつつ、ほかは初入閣が目立つ。
それらも派閥の力関係の中で選ばれている者が多いが、国会議員歴10年未満、副大臣未経験の議員から加藤鮎子こども政策担当大臣、自見英子地方創生担当大臣が選ばれたことは話題になった。
これまでも年功序列を無視して若手から抜擢された大臣はいたが、一度の内閣改造で若手が2人も起用されるのは珍しい。
さらに、新しい内閣では女性閣僚の数も5人と過去最多タイとなった。
つまり、今回の岸田首相による内閣改造は、党内基盤強化のために極端なまでに骨格の維持をしつつ、それ以外は刷新感演出のための人事に腐心した。
国民からしたら「政局」はどうでもいい
だが、早くもそれは「二兎追うものは一兎も得ず」になりつつある。
報道各社の世論調査では、改造直後であるにもかかわらず、内閣支持率が軒並み低迷し、毎日新聞と産経新聞の調査では支持率が改造前よりも改造後のほうが下がる結果となった。
なぜ内閣が新しくなっても支持率は上がらなかったのか。
その理由の1つには、今回の内閣改造が「人事のための人事」だと国民に見透かされたということがあるだろう。
前述の通り、今回の内閣改造は岸田首相の来年秋の総裁選再選という、日々の生活を営む国民からしたらどうでもいい政局が根底にある。
そのため、新しい内閣で新しい閣僚のもと、国民のために何をやっていくのかがメッセージとして伝わらない改造となってしまった。
こうした詰めの甘さは個別的事象にも表れている。
小渕優子氏は茂木幹事長が続投する中で選対委員長にスライドとなったが、これは過去に元秘書が政治資金規正法違反事件を起こしたことを追及されないよう、記者会見が少ない立場につけたと言われている。
しかし、それだけに小渕氏の就任会見は注目を集め、過去の事件について問われて涙を浮かべる様子がニュースで取り上げられ、話題になってしまった。