当然ながら、中国政府は、中国の自動車メーカーに対して「レッド補助金」や「イエロー補助金」を与えていることを否定し、フォンデアライエン欧州委員長の発言に対して抗議を行った。中国政府が補助金を交付しているかどうか真偽は不明だが、ヨーロッパに比べれば中国の人件費はまだまだ低く、それは車両単価の安さに反映されるはずだ。

中国製EVは不当廉売と言えるのか

そして、EVの生産に必要な希少金属(レアメタル)などの鉱物の多くを、中国の自動車メーカーは自国の資源企業から調達することができる。こうしたことも、車両単価の低下につながるはずだ。それに、中国には車載用バッテリーの生産に強みを持つメーカーも多い。こうしたことに鑑みれば、中国のEVが不当に安いとは言い難い。

そもそも、中国の自動車メーカーは、ヨーロッパ向けのEVに関しては国内向けよりも高い値を付けている。国有自動車メーカー最大手の上海汽車集団のヨーロッパ向けウェブサイトによると、同社が手掛けるグローバルモデル「MG4」の販売価格は、2022年9月13日時点で、2万8990ユーロ(約460万円)と定められている。

一方、MG4の中国国内での販売価格は、ベースグレードで11万5800元(約240万円)である。このMG4の価格差に鑑みれば、中国の自動車メーカーが、中国政府による補助金を基にヨーロッパの市場で不当廉売を仕掛けているとは言い難い。もちろん、かなり割安な車両もあるかもしれないが、EUの主張は一方的という印象を受ける。

EVの普及には様々なハードルがあるが、価格の高さはその最たるものだ。脱炭素化の手段としてEVシフトを推進するなら、廉価な中国製EVは本来ならば歓迎される存在であるはずだ。にもかかわらずEUが警戒感を強める理由は、EUがEVシフトを域内の産業振興策として、また域内の市場保護策と位置付けていることにある。

露骨な優遇策で欧州製EVを守るEU

もともとEUは、効率的なディーゼルエンジンを開発することで脱炭素化を図ろうとしていた。その戦略が2015年に発覚したディーゼルゲート(ドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス規制不正問題)で破綻するとともに、EUの自動車メーカーの国際的な評価が大いに損なわれた。その後、EUはEVシフトの姿勢を鮮明にする。

EUは域内の自動車メーカーに対して多額の補助金を交付し、EVの生産を後押ししている。日米中を念頭に、EUがEVの生産技術をいち早く確立し、その覇権を掌握しようという思惑を持っていることは、察するに余りある。同時にEUは、経済安全保障の確保を理由に、域内でのEVの供給をEU製のEVに限定しようとしつつある。

例えばフランス政府は、2024年にEVの購入補助金制度を刷新する。その際、石炭火力発電による電力を用いて生産されたEVは、補助の対象外となる。フランス大手の自動車メーカー・ルノーのルーマニアの子会社であるダチアが生産するコンパクトEV「ダチア・スプリング」も、中国での生産分は購入補助金の交付の対象外となる。

夕暮れ時のシャンゼリゼ通り
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