狙いは国産チップの実力を把握するため?

習政権は、生成AIの開発は共産党の意向に沿ったものでなければならないとの指針も明確にした。ということは、習政権はMate60Proの発表をきっかけにして、IT先端企業が開発を進めるAI利用を加速させ、経済と社会への統制の強化、工場の省人化(ファクトリーオートメーション)、デジタル行政の加速など経済運営の効率性向上につなげようとしている。

足許の世界経済で、AIが世界の成長を牽引するという期待や夢は大きく膨らんだ。代表的な企業はAIの学習を支えるGPUを開発した米エヌビディアや、高性能な半導体の設計を行う英アームなどだ。AIの高成長という強い期待は、米国を起点に世界に広がった。

中国は米国などの制裁を克服し、高性能なAI開発能力を内製化することによって、そうした夢を自力で実現しようとしている。そのためにMate60Proの利用機会を増やし、演算処理や予測、情報検索などの制度が高いAIを開発しなければならない。共産党政権が国産チップの実力を把握するために中華スマホの利用範囲を拡大し、iPhoneなどの利用禁止範囲を広げることも十分に考えられる。

スマートフォンの組み立てライン
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです

エヌビディア、アームに匹敵する企業は登場するか

今後の注目点は、中国がGPUの利用に欠かせない、高い技術を持つ開発企業エヌビディアやアームに匹敵する企業を限られた時間で育成できるか否かだ。現時点で、ハイシリコン、アリババ傘下の研究開発機関である“達磨院(DAMOアカデミー)”などは、中国のGPU設計、開発を主導する企業になる可能性を持つ。

米半導体大手AMDのGPU設計チーム出身者が主要メンバーを務める、“瀚博半導体”などのスタートアップ企業も資金調達を進め研究開発体制などを強化した。

GPUなど最先端のチップ設計図の開発に関しては、“アーム・チャイナ”がカギを握るだろう。アームの名がついているが、同社株式の48%をソフトバンクグループ、残りは中国系ファンドなどが保有し、英アームから経営は独立している。英アームは株式の公開に関する書類の中でアーム・チャイナの知的財産やデータ保護の適切さなどは保証できないと記述した。