売り上げアップの理由は出店数の急増ではない

まず見ていきたいのが山岡家の出店戦略です。

出店は小売り・サービス業にとってもっとも優先度の高い戦略要素です。特にチェーン店にとっては店を増やす=店舗が増えて売り上げが上がり、食材コストなどの原価率が下がり、収益性が高まるというのが鉄則だからです。

山岡家もコロナ禍でたくさんの店舗を出店して、売り上げを伸ばしているのだろうと想像しました。しかし出店数を時系列で見て私は驚きました。店舗の出店ペースがとても遅いスローな出店戦略なのです。

【図表】山岡家:売上高と店舗数推移(06.1~23.1)
丸千代山岡家IRデータより筆者作成

山岡家の出店数は06年1月期に67店舗でしたが、12年には137店舗と6年間で倍増させた時期があります。しかし売り上げは1.7倍までしか伸びず、数年間の停滞期間を経験します。

ここから山岡家は出店政策を見直し、本当に最適な立地にゆっくりと出店していくスロー経営に転じます。すると驚くことに、10年後の22年には店舗数は169店舗と23%しか伸びていないのですが、売り上げは70%増です。12年に1店舗あたり6000万円程度だった売り上げは23年1月期では8900万円まで伸びています。

山岡家は一般的な飲食店のように大量出店して売り上げを伸ばすのではなく、1店舗ごとの個店に磨きをかけて売り上げを伸ばす戦略を強化したのです。これは注目に値する取り組みです。

人がいるところに店は出さない戦略

山岡家はその出店立地にも特徴があります。

最大の特徴は、東京にはほとんど出店せず、地方郊外を選んでいることです。ですから都心の会社に毎日電車で通っている人は山岡家の存在をまったく知らないと思います。

山岡家はれっきとしたラーメンチェーン店です。一般的に売り上げを上げたいと考えたら、人口の多い立地に店を出していくものです。

しかし山岡家は人のいない地方の郊外ロードサイド立地に出店をしています。それでも1店舗あたりの売り上げを上げ続けているのです。

私が訪ねたのは、東京都唯一の店舗である瑞穂町の新青梅街道沿いの山岡家です。新青梅街道は東京の都心部と多摩地域とを東西に結ぶ主要な幹線道路で、物流関係の大型トラックがひっきりなしに通行します。この立地戦略こそが山岡家逆張り経営の極みであり、最大の独自性です。