AIの発達などで今後5年間、世界で8500万件の雇用が消失
『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』を執筆したリスキリングの第一人者・後藤宗明さんはこう言う。
「2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン教授らが『今後10~20年の間に米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化され消失するリスクが高い』と発表し、世界に衝撃を与えました。その後も、AIや機械学習の劇的な進化は加速し、2020年10月に世界経済フォーラムが発表したレポートのなかでは、『今後5年間で、人間、機械、アルゴリズムの労働分担が進むことによって8500万件の雇用が消失する』と発表されています。ただ一方で、同じレポートでは『9700万件の新たな雇用が創出される』とも付け加えられているのです」
テクノロジーの進展によって業務を失う従業員が新たに創出される仕事に就けるようにし、「技術的失業」を解決していく策として注目されているのが、リスキリングなのだ。
「技術的失業」に対する危機感を背景に、いま世界では、リスキリングを導入する動きが加速している。世界経済フォーラムでは2020年1月に「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言を採択。こうした中、さまぎまな国や地方自治体、そして企業でリスキリングが始まっているのだ。
「日本企業では人材投資にお金をかける文化が育っていない」
リスキリングに関して日本企業の現在地はどうなっているのか。リスキリングの取り組みを国際的に比較分析するデータはないが、日本では、欧米に比べると人材投資がされてこなかった傾向があるようだ。
図表2のグラフは、企業による人材投資(※)の国際比較を表している。
※OJTを除くOFF-JTの額(企業内外の研修費用等)。OJT(On-the-Job Training)は一般的に、職場で仕事をしながら上司や先輩等の指導のもとで仕事を覚えていく訓練。
日本企業の人材投資は、2010~2014年に対GDP比で0.1%にとどまり、米国(2.08%)やフランス(1.78%)など先進国に比べて圧倒的に低い水準にあり、かつ、近年さらに低下傾向にあることがうかがえる。もちろん日本は、伝統的にOJTで人を育てる傾向にあるなど簡単に比較できない部分はあるが、欧米に比べると人材投資に消極的であることは否定し難い。
バブル崩壊以降、多くの日本企業では、厳しい経営状況の中で人材投資を圧縮すべきコストと捉えてきた。また、人材投資をしても人材流出につながってしまうという危惧から人材投資を敬遠してきた。多くの専門家は「日本の企業には人材投資にお金をかける文化が育っていない」と指摘している。こうした状況の中、岸田文雄首相は2022年10月、このリスキリングを含めた「人への投資」施策パッケージに5年間で1兆円の予算をあてると公表しているが、欧米の先進国に比べると、取り組みはまだ緒についたばかりだ。