日立製作所はオンラインのリスキリングに4億円を投資

同社は、さらにリスキリングを強化するため、2022年10月には社員ひとりひとりのキャリア志向にあわせた自主的な学びをサポートするため、「LXP」という学習システムを導入した。専用のサイトに、今の仕事や「デジタルマーケティング」「データサイエンス」など強化したいスキルを登録すると、AIが自動で分析し、その社員にあう研修や教材を2万以上のコースから選んで提案し、社員はオンラインで無料受講できるという。日立はこのシステムの導入に4億円投資していて、2024年度末までに“デジタル人財”を国内外で9万7000人まで増やす目標を掲げ、力を入れているのだ。

最高人事責任者の中畑英信専務に話を聞くと、確固たる決意で次のように語った。

「ものづくり中心の時代はいい製品を作れていれば、お客様に買っていただける。以前はそういう世界でしたが、そうではなくなってきました。デジタルに大きく事業展開しているので、従業員もデータサイエンスやAIなどのスキルを身につけたい、あるいは会社としても身につけてほしいので、特に注力していきたいと思っています」

また、新たなスキルは、将来的に報酬と連動していくだろうとも語っていた。

「いわゆる成長する事業に人はどんどん動いていくと思うので、伸びる分野のジョブ、ポストについては多分報酬は上がってくると思います」

デジタル人財の能力開発に予算をかけてもリターンが得られる

他の日本企業に先行して、デジタル事業に先行投資したことが奏功し、目下、日立製作所の業績は絶好調だ。2022年度連結決算は、純利益が前年度比11.3%増の6491億円となり、過去最高を更新した。連結売上高は前年度比6%増の10兆8811億円。驚くべきことに、このうちの約1兆9600億円をデジタル技術を使ったソリューション事業が占める。もはや重厚長大の電機メーカーという日立製作所のイメージは過去のものになりつつある。

NHKスペシャル取材班『中流危機』(講談社現代新書)
NHKスペシャル取材班『中流危機』(講談社現代新書)

利益に占めるデジタル事業の貢献度は高く、同社の成功を見ると、“デジタル人財”の能力開発に多額の投資をしても、それに見合う以上のリターンが得られることがわかる。

人材投資をコストと見なし、極限までのコストカットを続けるだけでは、日本企業の「稼ぐ力」はいつまでも回復せず、日本経済を支えてきた「中流」の復活は絵に描いた餅に終わるだろう。リスキリングにいち早く挑戦して、「稼ぐ力」を取り戻した企業の取り組みには、“負のスパイラル”から抜け出し、所得中間層「中流」を復活させるヒントが隠されているように思えてならない。

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