「我々民進党の主張は現状維持だ」
だが、曖昧戦略のもう一つの目的である、台湾独立の動きを防ぐことについては、その可能性は極めて低くなっている。
蔡総統は21年10月、建国記念日の祝賀式典で演説し、「我々の主張は現状維持だ。(中台)両岸関係の緊張緩和に期待する」と述べ、統一圧力を高める中国にあらがっている。
台湾の民意は、現状維持派が独立志向派よりも多い。22年6月の台湾政治大学の世論調査によると、「永遠に現状維持」が29%、「現状維持、将来再判断」が28%で、現状維持派が大半を占める。「どちらかといえば独立」は25%、「今すぐ独立」が5%で独立派が3割、「どちらかといえば統一」「今すぐ統一」の統一派は1割に満たない。
もう一つ、麻生氏訪台の時期にかかわる、来年1月の台湾総統選の出馬予定者にも、独立志向派は見当たらない。民進党の候補予定者の頼清徳副総統は、かつて独立派を標榜していたが、現状維持派に転じている。
頼氏は今年1月、民進党主席就任の記者会見で、蔡総統の対中路線を継承する方針を表明し、「中台は互いに隷属しない」「台湾は実質的に独立した主権国家だ。改めて独立を宣言する必要はない」とも語った。
「覚悟」がなければ何も始まらない
麻生氏は8月8日の頼氏との昼食会の冒頭、「台湾の総統となる方の、いざとなった時に台湾政府が持っている力を台湾の自主防衛のために、きっちり使うという決意・覚悟というものが、我々の最大の関心だ」と述べた。頼氏との会談では、抑止力をめぐって議論を深めたという。
麻生氏は同日の記者会見では、総統選について、「台湾はきちんとした人を選ばないと、急に中国と手を組んで儲け話に走ると、台湾の存在が危うくなる」と述べ、中国寄りの国民党の候補予定者の候友誼・新北市長を牽制するなど、台湾内政に際どく踏み込んだ。侯氏は「両岸の交流を強化し、対立を減らす」と中国との関係改善を訴えている。
台湾有事を起こすかどうかは、独裁者・習氏の判断であり、抑止を成立させるには日本、台湾、米国が「戦う覚悟」を示し、習氏がそれを理解することにほかならない。覚悟がなければ、当局間の情報交換、住民避難計画、共同軍事演習も始まらないではないか。