位置情報を共有する理由

「位置情報を共有する」と聞くと、Twitter(現X、本稿ではTwitterと表記します)やFacebook上の「渋谷なう」という投稿、あるいは一昔前に「エアポート投稿おじさん」と揶揄やゆされた「いま空港です」といった投稿を思い浮かべる人もいるかもしれません。

たくさんの人に自慢したい、みんなからすごいと思われたい、という心理が、投稿の背景にはあるでしょう。

しかし、若者がZenlyを使ってリアルタイムで位置情報を共有する理由は、これとは全く異なります。友達との待ち合わせが楽。遊びに誘う時、「今ヒマ? 何してる?」といちいち聞かなくて済む。彼氏に送ったLINEに既読がつかなくても、既読スルーされることを無駄に心配しなくていい。若者からは、こうした声が聞かれます。

この背景には何があるのでしょうか。僕は3つの理由があると考えています。一つ目は恋愛観の変化です。僕のような昭和世代の若い頃は、結婚という絶対的ゴールに向かって、「どれだけたくさんの人と付き合ってより良い相手を見つけ出すか」という社会的競争がありました。まだ付き合っているだけの相手から束縛されようものなら競争で不利になりますから、「浮気防止ツール」(そう思ってしまいます)などまっぴらごめんです。

スマホでGPSアプリを使用中のイメージ
写真=iStock.com/Suwaree Tangbovornpichet
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一方、Z世代の若者は、価値観の多様化に伴って、結婚に対する社会的プレッシャーが弱まっていると感じています。マッチングアプリなどを通じて気軽に出会える時代になりました。選択肢が増えたことで、目の前の恋愛にガツガツする必要がなくなった。今の若者はかえって、その時々の相手との関係を楽しもうとしているように思えてなりません。

「広く浅い関係」より「深く狭い関係」を求めている

2つ目の理由は、若者たちの「人間関係」によるものです。

以前、「ネットだけの『広く浅い人間関係』にはウンザリ…Z世代が『本当の友情』を求めて始めた4つのトレンド」でも触れたように、SNSによって人間関係が「広く浅く」なった反動が表れていると考えられます。

Twitterやインスタグラム、TikTokなどのSNSが浸透し、大勢の人とつながることが可能になった結果、交友範囲は広くなりました。顔の見えない、知らない相手であっても気軽につながれるようになった分、リアルな友人に割ける時間も少なくなり、関係性は浅くなりました。

不特定多数とゆるくつながる、その反動として、一部のリアルな友達と深くつながるために、位置情報をお互いに共有し、友情を確かめ合う――。位置情報にはそんなZ世代のインサイト(心理)が隠されているように思います。