「太く短く生きる」性質を持っている

もしかすると、飢えや捕食に由来する高い死亡率と関係しているかもしれません。カブトムシの大きな体は野外でとても目立ちます。また、逃げるのもうまくありません。羽化して地上に出たとたん、彼らは多くの天敵に狙われます。また、樹液の出る餌場を見つけるのは簡単ではなく、運よく見つけたとしてもそこでほかの虫との争いに勝たなければならず、つねに飢餓と隣り合わせです。つまり、彼らには明日の命も保証されていません。

そのような状況では、スローライフを送っている場合ではありません。まだ産卵や交尾を始めていないのに食べられてしまった、というようなことになったら、せっかく成虫になった意味がありません。それよりも、さっさと交尾して、早めにたくさん卵を産むほうが遺伝子を残すうえで有利なはずです。

つまり、カブトムシは、いつ死んでもいいように、太く短く生きるという性質を進化させたのかもしれません。

カブトムシの幼虫は何を食べているのか

カブトムシの幼虫の餌は、分解の進んだ落ち葉や朽木です。餌の中身をもう少し具体的に見てみましょう。人間と同じように、幼虫が活動したり成長したりするためには、糖などの炭水化物(ごはん)とタンパク質(おかず)が必要です。人は米やパンなどの炭水化物を食べてエネルギーを得ますが、カブトムシの幼虫は植物に含まれる食物繊維から炭水化物を得ています。

植物の細胞壁を構成する成分である食物繊維は、多糖類と呼ばれる物質に分類され、文字通り糖が連なった構造をしています。人は食物繊維を分解できないため、食物繊維を食べてもそこからエネルギーを取り出すことはできません。

一方カブトムシをはじめとする一部の昆虫は、食物繊維を構成する糖を酵素の力でばらばらにし、栄養として吸収することができます。しかも、発酵した腐葉土に含まれる食物繊維は、土の中の微生物のはたらきである程度分解されているため、カブトムシの幼虫にとってすでに分解しやすい状態にあります。カブトムシの幼虫はそのようにあらかた分解された食物繊維をさらに細かく分解することでエネルギーを得ています。

カブトムシの幼虫
写真=iStock.com/stoickt
※写真はイメージです

一方、“おかず”であるタンパク質のおもな構成成分である窒素は、落ち葉そのものにはそれほど多く含まれていません。生の葉には窒素が多く含まれていますが、植物は葉を落とす前に、貴重な窒素を逃すまいと、その多くを回収してしまうからです。

しかし、人が堆肥や腐葉土を作る際、発酵を促すために、窒素成分として牛糞や米ぬかなどを落ち葉に混ぜ込みます。また、微生物には空気中の窒素を取り込む能力を持つものがおり、それらのはたらきによっても、堆積した落ち葉の中に窒素が供給されます。このようなプロセスを経て、カブトムシの幼虫の餌として適した、タンパク質に富んだ腐葉土が形成されます。