「自分は正しい教育をしている」非を認めない夫

こうしてA子さんは夫と別居しました。依頼を受けた私は、A子さんの代理人として夫に連絡を取り、A子さんと息子は夫による暴言などでつらい思いをしていること、離婚に向けて協議をしたいことを伝えました。

夫からは、「離婚には応じない。自分は正しい教育を行っているので、A子と息子はすぐに家に帰ってくるべき」という返事がきました。

家には戻らないと返事をすると、今度は「別居を許可するが、条件として毎日Zoomで勉強を教える時間を3時間取ること」と言ってきました。

それでは別居をした意味がないのでこれも断ると、夫は何も言ってこなくなりました。

子どもへのオンライン授業にこだわり

夫は離婚に応じないため、協議離婚は難しいと判断して、離婚調停を申し立てました。

夫は弁護士に依頼せず、毎回一人で調停にやってきて「離婚はしない」と言うのですが、A子さんと息子への謝罪は口にしません。代わりに自分はいかに努力して勉強してきたか、いかに苦労して国立大学に入ったかを調停委員に何度も話すのです。

こちらからは暴言の録音など、モラハラの証拠を提出しているので、調停委員が「これだけのことをしていたら修復は難しいと思いますよ」と説得すると、夫はようやく離婚に応じる姿勢を見せました。

しかし今度は、「面会交流として毎週土曜と日曜に5時間ずつZoomでオンライン授業を行いたい」と言ってきました。子どもに対する暴言が原因の離婚のため、この条件も調停委員には「難しいですよ」と言われ、結局は「月1回のZoomでの面会」という条件に決まりました。

こうしてA子さんは夫と離婚することができました。

仕事にも復帰して、実家の両親に協力してもらって子育てを続けています。息子はずっとやりたかった水泳を始めて、勉強もほどほどに続けています。

夫は月1度のZoom面会のたびに勉強のことを聞いていましたが、息子が楽しそうに水泳教室のことを話すので、だんだんと勉強の話はしなくなりました。

「教育モラハラ夫」の行動の背景

あまりにも時代錯誤なスパルタ教育の事例なので、本当にこんな人がいるの? と思われるかもしれません。しかし、子どもの教育にのめり込み、「俺もこのぐらいはできたんだ」と過剰な勉強を強いるのは、モラハラの一つのパターンとして一定数見られます。

夫の行動の背景にあるのは、一体何だったのでしょうか。

離婚届
写真=iStock.com/yuruphoto
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