「ストーカーの怒りが臨界点に達した時に事件は起こる」
しかし、そうやってDVから逃れた女性を、執拗に追いかけストーキングする男性が後を絶たない。このサイクルから脱却できない男性側のジレンマは、愛情と暴力の入り混じった感情をもたらし、離れていった女性を攻撃のターゲットにしていくのだ。
精神科医の福井裕輝(2014)は、ストーカーに関わる因子として、反社会性人格障害、自己愛性人格障害、発達障害傾向を挙げている。福井は、2012年に発生した「逗子ストーカー殺人事件」の加害者に対しては、自己愛性人格障害の可能性があるのではないかと指摘している。「結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え」といった加害者の文面から、自分の好意を正当化し、強い被害者意識により、身勝手な恨みを募らせている心理的状態を推測している。
加えて、「恨みを募らせながらも、相手にすがる。写し鏡である相手を失うことは、自分の全てを失うに等しいからだ。だが、追えば追うほど求めるものは遠のいていく。そんな相手に苛立ち、怒りを募らせ、それが臨界点に達した時、事件は起こるのだ」と説明を行っている。
凶悪なストーカーの心的過程を窺い知る上で、重要な指摘だと考えられる。
横浜の殺害事件では警察が積極的に介入できなかった
しかし、恋愛に関わる逸脱した行為がストーキングなのかどうかという被害者側の認識が、ストーカー規制法の条件に適さなければ、警察は容易に禁止命令を出すことができない。横浜市の事件においては、被害者側から警察に何度か相談などがあったものの元交際相手との関係修復が示されたことで、結果的に積極的な警察介入が遅れている。犯行1週間前に交際関係の解消をし、警察は暴力行為を継続確認したが、結果的にストーカーの暴力行動のきっかけを与えてしまっている。
その点を踏まえ、今後、法改正が必要となるが、それが実現するまでには時間的猶予がある。その間、私たちはどのように対処していくべきであろうか。そのことを解決する一つのヒントが、地域防犯活動の基礎的な学問となった「環境犯罪学」の考えに隠されている。シンプルな4つの対応で、日本の街頭犯罪を減少させた理論である。
まず、一つ目は「被害対象の回避・対象物の強化」である。これは、被害者自身を強化することに着目する。例えば、家族による安心・安全が自覚できるよう精神的に支えることで、被害者自身がはっきりと拒否する態度を示すことができるであろう。