“一台購入すると一台無料”の値下げ競争

その結果、中国の新車販売市場では共産党政権が普及を支援してきたEV、PHVの値下げ競争が熾烈しれつ化している。競合相手よりも先に値引きを行い、“一台購入すると一台無料”のキャンペーンまで打ち出されている。産業用補助金や工場用地の提供によって固定費の割合が低い中国メーカーは値下げ攻勢を仕掛けやすい。

対照的に、コスト負担、価格帯も高い日米欧のメーカーにとって値下げ競争は業績悪化の要因になる恐れが高い。その懸念から、中国事業のリストラに着手する企業もある。それは日産にとってひとごとではない。ゴーン時代の日産は、高価格帯ブランドの新モデル開発、リーフに代表されるEVの生産体制強化よりも、中国など新興国でのシェア拡大を優先した。

ゴーンの逮捕後、日産は事業運営体制を立て直すためにインドネシアの工場閉鎖など痛みを伴う改革を進めなければならなかった。リストラ費用の増加により業績は悪化した。今後、中国で生産能力が過剰になれば、再度、日産はリストラ費用を負担しなければならなくなるだろう。その結果、業績の回復に時間がかかる恐れもある。

主要メーカーは北米市場へシフトしつつある

中国の需要減少に対応するために、日産は北米を中心にEVなどの生産体制を迅速に強化しなければならない。昨年8月、米国ではインフレ抑制法(IRA)が成立した。IRAはEVなどの購入に最大7500ドル(1ドル=140円換算で105万円)の税控除を認める。条件は、EVバッテリーに用いられる重要鉱物の一定割合を米国、あるいは米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国から調達することなどだ。

駐車場に設置された電気自動車充電ステーション
写真=iStock.com/Marcus Lindstrom
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IRAの恩恵を享受するために、世界の主要自動車メーカーは北米地域での事業運営体制を急速に強化し始めた。日産にとって米国、カナダ、メキシコなどの企業と連携を進め、バッテリー、EV生産、さらには自動運転など先端技術(ソフトウエア)の開発を強化することは喫緊の課題と化している。

米国などでEVなど電動車の需要を喚起するために、新しいモデルの開発も強化しなければならない。インドネシアなどで韓国企業が進めているように、鉱山資源の開発、バッテリー生産、そのリサイクルや廃棄などを安心、安全に行う体制の整備も欠かせない。そうした基礎資材を各国の政策変更に合わせて、円滑に最終需要地に供給する体制の確立も必要だ。