原子炉の設計思想にそもそも問題があった

福島第一原発の事故の原因は、突き詰めると、1つしかない。「すべての電源が失われる全電源喪失という状況が、長時間にわたって続いたこと」である。

事故を起こした福島第一原発1~4号機と同じ大津波に襲われながら、福島第一原発5号機、6号機、福島第二原発、女川原発、東海第二原発では事故が起きなかった。そこで福島第一原発1~4号機と他の原子炉で何が違ったのかを調査・分析した結果、「原子炉に冷却用の水を送り込むポンプを動かすための電源が一つでも生き残っていたかどうかが、事故の分岐点になった」ことがわかった。

では、なぜ福島第一原発1~4号機では全電源喪失が起きたのか。これはもう原子炉の設計思想にそもそも問題があったと言わざるをえない。

今から40年以上前、福島原発の建設を巡る住民説明会では、このような説明がなされていた。

「地震があった場合、制御棒が入って緊急停止(スクラム)する」
「制御棒が入らずに緊急停止できない場合には、ホウ酸水が注入されて原子炉を停止する」
「通常の冷却機能が喪失しても、非常用クーリングシステム(ECCS)が確実に作動する」
「仮に原子炉の内部がコントロールできなくなっても、分厚いコンクリートと鉄で覆われた格納容器が、放射能の飛散を防ぐ」

しかし今回の事故調査の結果、制御棒が入ったこと以外、正常に作動した機能は何もなかった(放射能を封じ込めることさえできなかった)。全電源がなければホウ酸も注入できないし、ECCSも作動しないのである。

実は電源喪失の可能性を想定していたから、非常用電源装置は設置されていた。非常用電源まで喪失した場合には、外部電源があるというところまでは、原子炉設計者も考えていた。しかし、非常用電源も外部電源もすべて失われて、それでも原子炉を冷やさなければならない過酷な状況までは、想定していなかったのだ。

それは福島第一原発の原子炉の主契約メーカーであるGEの責任が大きいが、実はBWR(沸騰水型原子炉)に限ったことではない。この50年間、原子炉設計に携わったすべての人が、全電源長期喪失を想定していなかったし、大飯原発のようなPWR(加圧水型原子炉)にしても同じことだった。

全世界の原子炉が、基本的には福島第一と同じような設計思想に基づいてつくられていて、(非常用も外部も含めて)電源が長時間喪失することを想定していなかったのである。

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電源の比較検証

福島第一原発事故の最大の教訓は何かといえば、「そもそも事故を想定してはいけないということ」だと私は結論づけた。たとえば今、中部電力の浜岡原発では15メートルの大津波を想定して、総延長1.5キロに及ぶ万里の長城のような防波壁の建設が進んでいるが、それでは不十分だ。なぜならジェット機が墜落したり、テロリストの攻になったりしたら、防波壁などにも立たないからだ。

たとえ大津波にあっても、ジェット機が落ちてきても、テロリストが襲ってきても、「何が起こっても、冷却源を確保して原子炉を冷却ようにする」。そのためにはサイト(施設)内にソーラーなり、風力なり、小型の火力発電なり、あるいは外部電源車なり、原理の異なる発電設備と水または空気などの冷却源を確保しければならない。

実際、福島第一原発5号機、6号機の場合、1~4号機と同じく外部交流電源を喪失した。しかしながら、幸運にも6号機の非常用ディーゼル発電機が空冷式であったために地下に入らず、高所に置いてあり「その1台だけ」が動いたおかげで、5号機にも電力が融通されて冷却を行うことができた。1つの非常用ディーゼル発電機が機能したので2機とも冷温停止まで持っていくことができたのである。