ビジネスは戦いだ。毎月目標を達成し、成績も常にトップであろうとすれば、ライバルを押しのけ、無理な営業活動もするだろう。だが、孫子兵法家の長尾一洋氏は「その生き方は最悪。もっと楽な方法で大きな成果をあげる道がある」と説く。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします――。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミー の連載『クライアント、ライバル、家庭…最高の戦略書「孫子の兵法」が伝授 自分の要求を通しまくる技術20』の第1話を再編集したものです。

将来あなたのライバルになるのは、どっち?

いきなりですが、問題です。

同期入社の中で、見るからに優秀そうでクールな感じのA君といつもフレンドリーで人の良さそうなB君では、将来どちらがあなたのライバルとして邪魔な存在になると思いますか?

普通に考えれば、優秀そうでクールな感じのA君がライバルとしては手強そうだし、冷たい印象から嫌なヤツではないかと考えるのではないでしょうか。いや、人は見た目で判断できない。人の良さそうなB君は世渡り上手で、上司のウケも良く、いいヤツだけど社内の出世競争では邪魔になるかもしれないと考える人もいるでしょう。

そもそも、いきなり問題ですと始まって、クールやフレンドリーといった言葉で説明されても人間を評価することはできない。こんな問題自体がナンセンスだと冷ややかに受け止めた人もいるでしょう。

そうですね。筆者の言葉に素直に従って「A君かな、B君かな」と考えた人は、あまりに人を信じすぎて無防備なのかもしれません。しかし、問題そのものを否定して、筆者がどういう意図でこの質問をしているのか、狙いは何かと考えようとしないのは、せっかくのチャンスを活かすことのできない人かもしれません。

さて、この講座は、今からおよそ2500年前、中国春秋時代に著された兵法書「孫子」の知恵を学び、現代のビジネスに活かすことで「自分の要求を通しまくる」ためのものです。

兵法とは戦争のための指南書ですから、相手の言うことを鵜呑みにしてもダメだし、人を信じなければ命がけの戦いをすることもさせることもできないという前提で学んでいきましょう。知識を学ぶのでも、古典としての「孫子」を覚えるのでもありません。勝つため、負けないための思考の訓練です。安易に正解を求めないように。講座は全部で20講ありますから、徐々に孫子流の思考が自分のものになり、自分なりの正解が導けるようになるはずです。さぁ、孫子の兵法を題材に、思考の真剣勝負を始めましょう。

戦いに勝って喜んでいるようではまだまだ甘い

100回戦って、100回とも勝利する百戦百勝の常勝軍団がいたら、それが最強で、それ以上の軍はいないだろうと思いませんか。ビジネスで言えば、毎月毎月、目標過達で、年間成績もずっとトップの営業パーソンのような存在です。結果だけを見れば、100戦100勝がいいに決まっているわけですが、孫子の兵法ではそうは考えません。

孫子は、「百戦百勝は、善の善なる者にあらざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」(謀攻篇)と言っています。

百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策であるというのです。なぜでしょうか。

戦えば、たとえ勝ったとしても自軍にも少なからず損害が出ます。それを百回も繰り返せば、勝ち続けていたとしても徐々に兵士が傷つき、疲弊もするでしょうし、戦費も馬鹿になりません。もし、その隙をついて第三国が攻めてきたらどうでしょう。さすがの常勝軍団もどこかの時点で大敗を喫するかもしれません。

それよりも、実際には戦わず、武威を示すだけで敵国が降伏してきたら、自軍にも毀損はなく、敵軍にも毀損がない状態で、却って兵力は増すことになります。そうすると益々強くなり、それによってまた別の国を降伏させて属国にすることもできるかもしれません。これが「戦わずして勝つ」です。現代で言えば抑止力と言い換えることができるでしょう。